(ぼくらは / ぼくらには)








人には必要な記憶と、そうでない記憶があるのだと、目前の男は言った。
その括りで話を進めるのならば、お前のそれは必要でない記憶なのだと続ける。
そんな事は、少なくともお前が決めるべき事象ではないと思うだけだ。


まあ、この男相手に自我が通用するわけもなく、今のこの状況だ。
とっくに諦めている。
結局は単純な話、自分はこの男よりも弱かったのだ。
だからこんな有様に陥っている。たった、それだけの話だ。


術は特になく、残された僅かな時間さえも、
この男の道楽に付き合わされ消費する。
敗者とは往々にそういうものであり、
何れ自身もその枠に収まるのだろうと思ってはいた。


「…人ってのは、生き方によってカテゴリ分けされる。
その段階で自我が芽生え、個性も持ち、選り分けられるんだ」


俺はそれが嫌いでね。


「あんたの望むものは、従順なお人形さんでしょう?いないわよ、そんなの」
「いないんなら作りゃいい。簡単な話だぜ」
「詰まらない世界の王様になりたいってわけね」


好きにしたらいい。
はそう言い笑う。
心底下らない思想だと思っているからだ。


均等化された世界は、支配者だけが居心地のいい、至
極単調で詰まらない世界だ。
そんなものが嫌いだったから、逃げ出した癖に。


「お前が消えて二年。こうして又、顔を見れるとは思っちゃいなかったが」
「…何が言いたいのよ」
「世界が詰まらないかそうじゃないかは、自分で決めるんだよ」
「いいから早く殺しなさいよ。あんたの御託は聞き飽きたわ」


海軍の犬が。


「そう、焦るなよ。時間は腐るほどあるんだぜ」
「ないわ」
「ない?」
「あんたの為に使う時間なんて、あたしにはない」


少しだけ呆気に取られたような表情を浮かべたローが、口元を歪め笑った。
あの、見慣れた笑い方で。
こういう些細な箇所ばかりがまるで変わらず、嫌になるだけなのに。


「…馬鹿かお前」
「…」
「お前に選択権なんざ、ねぇんだよ」


この男はこうして、酷く静かにゆっくりとこちらを責めるのだ。
あの時、勝手に姿を消した罰を与えようと。
ローの指が額を突いた。
前髪を払い、彼の指先は、行く充てもなく彷徨う。





ネタバレの為、反転↓

まさかローが七武海入りとは恐れいったぜ…
七武海入り記念夢


2012/3/10

AnneDoll/水珠