決して背けない








偶然にしたって出来過ぎてるわと笑ったは、
一杯だけよという約束でグラスを交わした。
砂嵐の吹き荒ぶこんな町で出会うだなんて詩的で、
こちらの気持ちは少なからず盛り上がる。



二年前のあの日、この女は姿を晦ました。
心に大きな痛手を負ったまま。
どうにか行方を知りたく、八方手を尽くしたが
の所在は一切分からなかった。
恐らくは全精力をかけ、姿を晦ましたのだろうと予想し、
手の打ちようはないのだと自身を納得させた。
痛手を負った姿を晒したくなかったのだ。



彼女が何を言おうと、負った傷の深さは果て無く、
手に取るように見える。
この二年の間に癒えたのかは謎だが、
こんな偶然を許せるようになったのだ。
多少は変わったのだろう。



「それにしたって、どうしてこんなところにいるのよ」
「野暮用さ」
「あんたはいつだってそうね」
「覚えてくれてたってのか、嬉しいねェ」



がこんな砂漠の中にいる理由を知っている。



「ようやく会えたんだ…」
「…」
「これっきりって事は、ねェよな」



は聞いていたはずだ。
この国にエースがいた事。
ここでルフィと会った事。
だからこの女は今、ここにいる。
失った恋に縋るために。



「よしてよ、シャンクス」
「俺は、お前が憐れでね」
「知ってるわ」



エースに雰囲気が似ている男も、
それこそエースよりも優しい男も星の数ほどいる。
目の前の男だってそうだ。



この二年の間でエースの姿は随分色褪せた。
決して忘れたくはなくとも、人の記憶は簡単に色褪せる。
永久の片思いを祈っても叶わない。



「だったらどうして、あの時」
「怖かったのよ」
「!」
「あいつが万が一、あたし以外の名前を口にしたらって思うと」



怖くて聞けやしなかったとは呟いた。
あの通りの生き様のエースは、
生前特に決まった女と関係を持つ事はなかった。
手あたり次第刹那的に快楽を求め、
ちゃんとした関係を保つ事を避けていたのだろう。



傍から見て、とエースの間に
何かしらの関係があったとは思えないが、思いは存在したはずだ。
互いが互いを信じ、だけれど関係を崩す事を恐れ一歩を踏み出せない。
そんな曖昧な関係を保ったまま、エースは逝ってしまったのだ。



「ごちそうさま、シャンクス」
「言葉もねェよ」
「…」



置かれたグラスに残った氷が音を立てる。
そんな気持ちで生きていくなんて、
それこそ生き地獄じゃねェかと叫べども砂嵐に掻き消され、
ようやく出会えたは蜃気楼のように歪む。



グラスを置いたは微笑んでいただろうか。





何だかんだ言いながら
結局書いてんじゃねェかという話ですが、、、
相変わらずお前はエースを引きずっているのかと
三年半ぶりの私が驚愕
続きます

2015/11/14

なれ吠ゆるか/水珠