抗う血








本当は酷く動揺していた。
あの日以来、全ての理と縁を切り、まるで亡霊のように生きてきた。
生きている意味などないような人生だ。



未だ立ち直れていない己に嫌気こそさすが、
だからといって気持ちが変わる道理もない。
こんな状態は良くないと頭では分かっているが
今更どうして変える事が出来る。



時間が経ち、思い出す事も頻繁ではなくなった。
記憶の中のエースは限りなく色褪せ、最早想像の産物と化している。
そのまま風化していく事がどうしても耐え切れず、彼の軌跡を辿る術を選んだ。



「…どうしたんだお前」



そんな顔して。



「何でもないわ」
「何もないって事はないだろ」
「いいから」



いいから放って置いて。
真っ青な顔をしたが戻って来たのは夜半過ぎの事で、
本当にこの女が戻って来るのか半信半疑だったローは多少なりとも驚く。
それでいて、とんでもなく悪い顔色だったもので、余計に驚いた。



この女を拾ったのは半月ほど前の事で、
たまたま立ち寄った島の崖下でべポが見つけて来たらしい。
どうやら足を滑らせ200mほど滑落したらしい。
多少傷を負っていたが気を失っているだけだった為、
処置を済ませ部屋に寝かせておいた。




処置の最中、女の背、腰の辺りに入れ墨が入っている事に気づいた。
このマークは。
目覚めたは見ず知らずの船内にも関わらず
動揺一つしてはいなかったが。



「そんな様じゃあ、すぐにお陀仏だぜ」
「…何よ」
「お前を狙ってる奴らは山ほどいる。海軍も、海賊も」
「―――――あんたも?」
「…」



この女の全盛期を見た事はないが話はよく耳に入っていた。
火拳のエースと共に動き、白ひげ海賊団の名を数多に轟かせていた女。
あの大戦後、姿を晦まし、未だ所在の確認は取れていなかったはずだ。
そんな女が何故こんな砂の町にいるのかは兎も角、
今にも死にそうな姿を晒しているのか。
何となく想像はつくが納得は出来ない。



「お前にどんな事情があろうが、何の関係もねェ。
 火拳が生きてようが死んでようがな」
「ヤメテ」
「今のお前は、全てをあの戦いの所為にした、とんだ卑怯者じゃねェか」
「分かってるわよ、そんな事」



そんな事くらい。
だけど。
この身体に染みついたあの男がいつまでも楽にしてくれないのだ。
心にも身体にも染みつきまったく消え失せてくれない。
記憶からは消えゆく癖に。



どれだけ泣いても喚いても暴れても過去は変わらないし未来も輝かない。
何も、何も変わらない。



「…どうにかしてやろうか」
「何?」
「どうにかしてやろうか、それ」



テーブルに肘をつき、足を組んだローはこちらを見つめそう言う。
歪んだ視界の中映るこの男とは半月前に出会ったばかりで、
互いに何も知らない間柄だ。



「…」
「簡単だぜ」
「…」



この部屋にはとローの二人しか存在していない。
口を開き言葉を垂れ流すローは動かないし、立ち尽くすだってそうだ。
ローはこちらを見ている。
酷く喉が渇いていた。





ロー書くのかよ!
スイマセン、書いてしまいましたごめんなさい
このサイト内、時間は経過しませんすいません
そして続く、、、ぜ?

2015/11/14

なれ吠ゆるか/水珠