愛に飢えた獣








「おい」
「キッドじゃない。何してるのよ」
「いやもう、そんなのはこっちの台詞なんだけどよ」
「ちょっとそこ退きなさいよ。危ないわよ」
「そういう事は」



もっと早く言えと呟いたキッドは、
頭上に振って来た瓦礫を払いのけた。
つい数分前までは確かにあったはずのバーは欠片もなく、
只々、瓦礫と砂埃ばかり立ち上る。



まさか店内にこのがいるだなんて夢にも思っていなかった。
いる事を知っていれば店に入らなかったし、
この島もすぐに出て行っていたはずなのに。



「おい、キラー。大丈夫か」
「…問題ない」
「(本当かよ…」ならいいけどよ」



嵐を呼ぶ女。
そう呼ばれている。
あの女が通った後には
雑草一本残らないと囁かれるとんでもない女。
災厄に似ていると常々思っていた。



この一年ほど顔を合わせていなかったが、
厄介さは何一つ変わっていないらしくこの有様だ。



「久しぶりだな、
「相変わらず一緒にいるのね」
「お前は相変わらず一人か」



髪の中に入り込んだ
(この様子では仮面の中にも入り込んでいそうだが)
砂を祓いながらキラーは話しかけている。
酒を頼み乾杯する直前に床が抜け落ちた割には
落ち着いた対応をしていると思う。



「何があったんだ」
「(そんな面倒臭ェ事、聞くなよキラー!)」
「いつもと一緒よ」
「又、男絡みか」
「酷い事言うんだもの」
「(コイツ、又かよ…)」



以前、似たような惨事に巻き込まれた事がある。
その時は事件の始まりから出くわしてしまい、
この女(無論だ)が印象の薄い男に
【お前は一人でも生きていけるだろ】
等とよく聞く別れの言葉を頂戴している現場を見ていた。
それはないと思ったのはも同じだったらしく、
男が言い終えるかどうかのタイミングで辺り一面焦土と化した。



そう言えばあの時も死にかけたわけで、
本当にこの女と遭遇するとロクな目に遭わないのだ。



「おい」
「何よ」
「お前がどんな男と何しようが勝手だけどな、こういうのはやめろ」
「はぁ?どうしてキッドに指図されなきゃいけないのよ」
「少なくとも俺らが近くにいる時はやめろ」
「聞こえなーい」



やめさせたいんなら力ずくで押さえつけてみなさいよと
事も無げに言うわけで、いよいよ実力行使も辞さない構えだ。
瓦礫の山を踏みつけながら歩くはキッドに背を向けている。
余りにも隙だらけでやる気にもならない。



ウロウロと瓦礫の山を歩いているは、
自身が殺した男の躯でも探しているのだろうか。
以前から母親の如くを心配しているキラーは
今も何事かと彼女の後ろをついて回っているし、
只酒を飲みに来ただけだというのに、俺は一体何をしているんだ…。



「全部なくなっちゃえばいいと思ったのよ」
「そうか」
「だけど、なくなったらなくなったで詰まんないわね」
「そうか」



お前、そうか、しか言ってないじゃねェか
と思わず突っ込みかけるがどうにか耐える。
ここで突っ込んでしまうと又ややこしい話になってしまうからだ。
瓦礫の中を歩きながらヒソヒソと(恐らく詰まらない)
話をしているとキラーを見ながら、
何時までここにいるんだと一人ぼやいた。
(早く帰ろうぜ、キラー!)





凄い久々に書いたぜー
キッドとキラーは未だに癒しの宝庫やで、、、
とりあえずこのサイトでは

2015/11/23

AnneDoll/水珠