このまま世界と心中しようか





ちょっとくらいイカレてるんじゃないかと思った事がある。
自分に対しても、 に対してもだ。


名を告げるより先に身を交わしていたなんてよくある事で、
通常のプロセス通り、名前も知らない相手になると思っていたのにだ。
まさかこちらがズルズル引き摺られる事になるとは夢にも思わなかった。


具合がよかっただとか、相性がよかっただとか、それだけの理由ではない。
同じ女と二度、いやそれ以上やりたいと思い、顔を思い出す。
これは愛なのか。愛というものなのかも知れない。


それでも頻繁に出くわす相手ではない為、お前じゃなくてもいいと嘯き他の女を抱く。
精を吐き出す瞬間、あの一瞬の気持ちよさを求め交配を続けるだけだ。
出してしまえばぞっとするほど簡単に頭の中は醒めゆき、
ピロートークを求め甘えて来る女をよそに背を向け眠るか部屋を出るか。


幾度か繰り返せばやはり に対する思いも
勘違いではなかったか、そんな予感が巡る。
心は平穏を迎えるのに、タイミングのいい彼女は
そんな時に限って顔を見せるわけだ。
一気に動揺する心を必死に隠し、
別にお前じゃなくても俺は構いやしねぇと呟きながら身を交わす。
は笑いながら特に返答する事もなく、
深入りしない関係が彼女にとって最上なのだろうと予想した。
立場が入れ替わった瞬間だ。


深入りしない、心は二の次にまずは身体だけで構わない。
口には出さないまでも の望むものはそれだと分かってしまった。
著しいショックを受けたなんて、まるで身勝手な物言いだ。
セックス後にタバコを燻らせる を見つめ、
大した言葉を繋げる事も出来ず、彼女の腹に頭を乗せる。
はこちらを見ずにエースの髪を弄った。


本当の気持ちを伝える事が出来ないというのは何と辛いのか。
朝焼けが姿を見せれば離れ離れになるというのに、
こんなに辛い夜は耐え切れないと思うのに止める事が出来ないでいる。
愛なのか遊びなのか。どちらも大差はないだろう。スタンスが問題だ。
本当は臆病なのかと疑ってもいた。己を。


だから今は身体を求める。腕を伸ばせば確実に触れられるものを。
心は気づかぬ内に逃げ出すが、身体は追いかければ逃げ切る事が出来ないと踏んだからだ。
何と後ろ向きな。


「このままお前と一緒にいてぇな」
「無理よ」
「どうして」
「だって、そんな事になったら」


あんた飽きて逃げ出すでしょう。
違いないと答えはしたがそれはお前だろうと返せなかった。
だったら、いっそ


このまま世界と心中しようか。






エースの館じゃないのにエースを書いてしまったという。
最近、こう自業自得系のエース多いなあ。
2010/2/3

AnneDoll/水珠