蝶の転寝





何事もないように振る舞い、どれだけの月日が経過したのだろう。
毎日同じ日々とはまではいかないまでも、特に問題もなく生活は営まれる。
様子を伺えども、どうやらマルコは意図的に避けているようで、
そんな心中を察してしまえば も身動きが取れなくなる。
以外の誰一人気づかない意図だ。
二人きりになる展開をマルコは避けている。
別に無視をするわけでもなし、他愛もない会話はする。
それでも不思議と二人きりにはならない。


酒盛りの時だって同じだ。
泥酔し騒ぐ仲間をよそに、泥酔の振りをするだけで酔い潰れはしない。
元々、そういう性格なのだと思えば疑問は消えるが、
が泥酔をしても振りをしても
何故だかマルコは側にいないのだから、やはりそういう事なのだ。


マルコが恐れている事態を知っている。
散々、シュミレーションを繰り返した。一人眠る夜に。
厄介な事や(という事はだ。マルコはこちらの事を厄介だと思っているのだ)
面倒な事を避けたがっている。
そんなものに手を焼いている場合ではないという事だろう。


一度だけだと割り切る事も出来なくはないが、
目の前に餌がうろついている現状を考えれば少なからず無理が生じる。
欲しいものが自由に動き回っているのだから、手を伸ばしたくなる。
他に気が移れば終わるだろうと楽観的に踏んでいたが、
中々どうして気は移らず、むしろ重さを増やしたようだ。


骨の髄まで愛してと言いたいわけではない、
只もう一度あの感触を味あわせて欲しいだけだ。
手に入らないものが一瞬でも手に入った感触。
その先にきっと、愛しいだとか、恋しいだとか。
そういった感情が待ち構えている。
一度ならず二度目ともなればもう我慢は出来ない。
だから、マルコは。


虎視眈々と狙い続け(我ながら飽きもせずによくやると思う)ようやく迎えた局面。
気を抜いたのかどうなのか、兎に角隙が出来た。
荷を取りに倉庫へ向かったマルコの後をつけ、ドアを閉める。
一瞬だけ動きを止めたマルコが、こちらに背を向けたまま溜息を吐き出した。


「…何だよぃ」
「もう気づいてるでしょ?マルコ」
「何の話だよぃ」
「あたし達は只の仲間になれないのよ」
「…」


どちらに転ぶのかは分からない。


「一度だけって約束だったろうよぃ」
「知ってる」
「約束は約束だよぃ」
「他に誰もいない癖に、何が問題なのよ」


この狭い倉庫内、目前のマルコに触れたくて堪らない。
ゆっくりと振り返った彼は特に変わった様子もなく、こちらを見下ろしている。
愛されなくてもいいとは言わないが、愛させてくれと言いたいだけだ。
鬱屈したこの愛のようなものを差し出し、反応を伺いたい。
ああ、もうそれよりも。只、触れたい。


「ガキの遊びにゃ付き合えねぇよぃ」
「だったら、ガキの遊びじゃなくしてよ」
「…」
「大人の遊びにマルコがしたらいいじゃない」


そういう所がガキなんだと呟いたマルコは、近づく から逃げ切れずにいる。
なりふり構わない を持て余しただけだ。
触れてみて、欲しがり、その結果が何なのかは想像にもしていない。


「どんな目にあっても、文句は言えねぇぜ。
「知ってる」
「親父に泣きつくなよ。笑われちまう」
「分かってる」


だから今は黙って口付けてと急かせば、興味の向こう側が透けて見え、
いつだって似たような過ちを繰り返していると思ったマルコは、
過去の自分に悪いと謝り、手を伸ばす後悔に飛び込んだ。












だーから結局、マルコは何歳なんだ。
彼の年齢により、話は結構変わってくるんですけど。
最悪、スモーカーより上なのか下なのか、それだけでいい。
シャンクスよりは下だと思ってるんですけど。
2010/2/18

D.C./水珠