真夜中の愛を知らない





約束一つ交わしていない有様だが、何となく と遭遇する確立は高い。
意識していなかったが、どうやら想定の範囲で行動しているらしいと気づいた。
の行動パターンは完全に読めている。
初めて顔を合わせてから今まで、随分な時間が経過した。
あんなに小さい頃から変わっていないという事だ。笑えやしねぇと思う。


夜半過ぎ、もうそろそろだと時間帯で目測をつけ部屋を出る。
あの男運の悪い女はこんな時間帯に外を歩いているのだし、きっとローを待っている。
それが分かっているから、出て行くだなんて思いたくない。だなんて、それは言い訳だろうか。


暫く歩けば人気のなくなった公園が見え
(しかし、この公園は余り治安がよくない。頻繁に痴漢の類が出ているし、
数年前には殺人未遂事件も起きている)チカチカと点滅している街頭の下、
ポツンと一人座り込んだ を確認した。
定位置にいると安心し、何食わぬ顔で近づく。


こんな偶然は決してありえないと分かっているはずなのに、
も何食わぬ顔をしたまま少しだけ笑う。
微かに右頬が赤くなっているという事は、今回も又ろくでもない男に引っかかったのだろう。
よくもまあ飽きもせず、それに色んなバリエーションのろくでもない男に引っかかるものだ。


「…メシでも食いに行くか」
「…あんまりお腹、減ってないのよ」
「俺が減ったんだよ」


すっかり冷えてしまった彼女の手を取り、少しだけ強引に引き寄せた。
力ない足取りの は歩く気力さえ失っているようで、
何ともいえない感情が胸を埋め尽くした。こんな感情を抱くようになったのはいつ頃からか。
名前も分からないこの感情は攻撃性を秘めている。


行き先は深夜も開いているファミレス。
そんなに客もおらず、ローがドリンクバーへ向かい、
自分の分と の分の飲み物を持って来る。
何でもいいと言う癖に氷を溶かすばかりで一向に減る気配はない。
レンジアップされた料理を腹に詰め込み、数本のタバコを燃やし店を出る。


この関係は何なのか。うっかりそんな事を考えてしまえばキリがない。
最初は互いの思惑が合致しただけだと思っていたが、
案外続いてしまった今となれば、どちらが優位なのかは分からなくなってしまった。
手を繋ぎ来た道を戻り、アパートの階段を登る。
ちっとも口を開かない に何事かを話しかけた。
余り気のない彼女は曖昧な返答を繰り返すが、それも今に始まった事ではない。
すっかり心は奪われてる癖に、身体だけを寄越すなと思うだけだ。
パブロフの犬に似ていると感じた。


鍵を開け、部屋に入る。
既に勝手知ったる部屋になったというのに、 は先に上がらない。
こんな感覚が嫌で堪らない。
いっその事、テリトリー内に土足で踏み込まれた方がまだ楽だ。
今更そんな、気を使うんじゃねぇよ。
上着を脱ぎ冷蔵庫からチューハイとビールを取り出していれば
はベッドに座り込んだまま一点を見つめていた。


「どうした?」
「ねぇ、ロー」


缶を開けチューハイを彼女に渡す。
甘い酒は の為に買い置きをしている、だなんて事実は誰も知らなくていい。
何事かを言いかけた は表情を変え、
明日は仕事なの、だとか急にごめんね、だとか。
意にも介さない言葉を選んだ。その都度募る失望感。


「別に構いやしねぇよ」
「本当、ごめん」
「何か、ツマミがねぇかな」


立ち上がろうとした瞬間だ。 が抱きついてきた。
ごく自然なやり方で抱き締め返す。
そうして口付け、床に彼女を寝かせ服をずらし―――――
怠惰な夜の終焉を迎える為に儀式を行うだけだ。


わけの分からない男の話を聞くのも飽きたし、
彼女の馬鹿さを目の当たりにするのにも飽き飽きだ。
慰める為のセックスも、消費するだけの身体も。
俺達は真夜中の愛を知らないな。
心の中でそう呟けば、真夜中以前の問題だと気づき、
胸中に渦巻く名も知らぬ感情がいっそう、膨れ上がったような気がした。












パラレル・・・?です。
普通の恋人同士になるには遅すぎた二人。
ローはこういう役どころなのだろうか。
主人公は多分、ローより年下か同じ歳。
2010/2/22

D.C./水珠