君の目線でを見る





携帯電話を取り出し、発信履歴の一番上にリダイヤル。
留守電に変わる直前、大体そのくらいのタイミングで の声が聞こえ、
別に用はないと言いながら会話を始める。
用がないなら電話をするなよとも思うが、確かに用はないのだ。
急に雨が降り出した為、雨宿りをしながらの通話。
丁度彼女は公休で、きっと昼過ぎ辺りに起きたはずだ。
少しだけ眠たそうな声が聞こえ、やっぱりそうだったと思え、
何故だかそんな事が嬉しく思えた。そんな自分が我ながら気持ち悪い。


『…雨降ってんの?』
『酷い雨だぜ』
『それって、ローのトコだけじゃないのー?こっち、全然降ってないんですけど』
『びしょ濡れだって、俺』


だから部屋に上げてだなんて流石に言えない。
きっと、以前の自分なら迷わず言えたし、相手が でなければ今も言える。
アポも取らずに上がり込む事さえ出来る。
あの頃、 の髪がまだ長かった頃だ。
皆でオールなんてものをしたり、
冬休みがてら泊りがけでスノボに行ったりしていた頃。
まさか を好きになるなんて思いはしなかった。
が自分を好きになる事はあったとしても、まさか立場が逆になるなんて。


『お前、今日休みだろ?』
『何で知ってんの?』
『昨日、言ってたろ』
『あ、あたし言ったっけ』
『…今日、何すんの』
『えぇー?』


勢いは未だ収まらず、道行く人々が悲鳴を上げながら走っている。
ローは某有名ブランドのショーウィンドー前に立っている。
曇り行く空を見つめながら、探るような真似はしたくないだとか、
こんな真似は似合わないだとか、詰まらない事を考えた。
発信履歴の一番上から の名前が消えなくなったのはいつ頃からだろう。
発信回数が表示されない機種でよかったと心底思った。


『何もしないけどー』
『詰まんねぇヤツだな』
『だってする事ないしー』
『…』
『あれ?切れた?もしもし?もしもーし?』
『だったら、出て来いよ。
『切れてない?えっ?今、何か言った?』


このタイミングに心折られそうになるが、ぐっと堪える。
急に降り出したこの雨は一過性で、じきに晴れ間が顔を出す。
そもそも、この数ヶ月、通話料金が倍以上に膨れ上がっているし、
だからといって同じキャリアの機種に変えるには時期焦燥だし、
正直、同じキャリアにするなら色違いで同じ機種を持ちたい、
だなんてトコまで妄想は発展してしまった。これは宜しくない傾向だ。


『お前、休みなんだろ?遊ぼうぜ』
『えぇー?ローと!?何して遊ぶの…?』
『何って…メシ食いに行くとか、色々あんだろ外に出たら』
『ローも、そういう事するんだねぇ…』
『お前、俺の事、何か勘違いしてねぇか…?』
『いや、意外と普通だなって思って』
『で、どうなんだよ』


たった一つの答えを聞くまでの道のりが長すぎる。


『えぇー?いいけど…ちょっと時間かかるよ?』
『何で』
『だって、まだ化粧もしてないから』
『そんなん、しなくていいからさっさと出て来いよ』
『いやいや無理。本当無理だから』
『よし、決定。30分後におまえん家、迎えに行くからな』
『うわぁ、凄い勝手!』
『後、29分』


何だかんだと言いながら付き合いのいい彼女の事だ、29分以内に準備を終える。
通話の切れた携帯を閉じ、空を見上げれば雨もそろそろ止みそうで、
お膳立てされたような天候に少しだけ感謝しながら歩き出した。











設定としては、
現代パラレル。社会人。ローが告白する話。
だったらしいですよ。
わ、分かり辛いだろ・・・!
2010/2/23

D.C./水珠