嫉妬とその類の感情、或いは





はっと目を覚ませばマルコの顔が目に入り
真っ先に脳裏を横切った言葉は怒られる、それだった。
この男の趣味はこちらを怒る事なんじゃあないかと思ってしまうほど怒られている。
何なら連日怒られている。
まさかこの歳になってこうまで人に怒られるとは思わなかった。
一度は目を開いたが本当は寝ぼけていた風を装おうとも思ったが、
それよりも先にマルコが口を開く。


「なぁにをやってんだよぃ」
「…うぅ〜ん」
「起きてるのは分かってるんだよぃ」
「…」


狸寝入りもいい加減にしろ、だったか。
マルコはそう言い毛布を剥ぎ取った。
昨晩の約束を守る事が出来なかったのだ。


あたしを駄目にしたあの男を今度こそぶっ殺してやる。
まあ、同じ台詞を何度口走ってしまったのか。
そうしてマルコはマルコで、同じ台詞を何度耳にしなければならないのかという話だ。
毎度の如くやれ殺すと息巻いて出て行くは散々な目に遭って帰って来る。
お前、やるならやるで勝って来いと、
口が酸っぱくなる程言い聞かせているのにこの有様だ。


昨晩、何の前触れもなしに例の如く宣言をし、
船を飛び出して行ったをこっそりとつければ案の定だ。
力を半分も発揮出来ず、されるがままになっている。
哀しく縋る彼女なんて正直一番目にしたくないもので、
尚更マルコは憤慨する。


「いい加減、未練がましいんだよぃ。お前は」
「…だって」
「何回あいつに売られりゃあ気がすむんだ」
「分かんない、分かんないわよ!
 何回売られたって全然懲りない、あたしがバカだって分かってる」


弱い男だった。昔から。
その弱さを目の当たりにし自分が守らなければ、
なんて間違った感情を持ってしまってからが地獄だ。
あたしがいなけりゃあいつは死んじゃうじゃない。
いいや、あいつはのうのうと生きていくぜ。
マルコとのやり取りは平行線に終わる。
こっ酷く裏切られた事も両手で数えきれない程あるのだし、
それでもあの男はお前がいなくなれば、俺は。そう囁くから。


「お前は、大馬鹿野郎だよぃ!」
分かっていた。
そんな事はマルコに言われなくても分かっている。
でもだって、どうしたらいい?
確かにあたしは強いけれど、そんな強さじゃあいつを守れもしない。
只、傷つけるだけ。


「…だったら、俺がやってやるよぃ」
「マルコ…?」
「お前がやれねぇんなら、俺がやってやる」


の中からあの男を消す、だなんて荒療治もいいところだ。
どちらに転ぶのかも分からない。
それでも、もうこんな彼女の姿は目にしたくなかった。
いつ死んでもおかしくねぇだろ、生きてるだけマシなんだよぃ、お前は。
腫れた顔で帰って来るを、どれだけの思いで迎えたかを彼女は知らない。
こちらがどれだけ我慢をしているのかをまったく知らない。


「お前を泣かせる野郎なんて、許せる道理がねぇだろよぃ」
「あたしが、勝手に」
「だから俺はお前も許せねぇよぃ」


強めのデコピンを喰らい、目の前に星が散らばった気がした。











駄目な男に惚れている主人公を好きなマルコ、
という受難な設定を書くなよ・・・。
女を殴る男はどうかと思う(自分で書いておきながら)
2010/2/25

なれ吠ゆるか/水珠