酷くい吐き気がした





の指先がグラスあたり、
あっと小さな声を出した時には既に砕け散っていたのだから、思わず視線を上げた。
静まり返ったこの部屋にグラスの砕ける音は響き渡り、
ごめんねと誰に言うでもなしに呟いたを見つめる。
俺が片付けると口にした所でやんわりと静止されるだけだし、
どうやらこの部屋の中でローは自在に動けないらしい。
何をするにしてもの眼差しが自身を追う。
何かあるのかと常々思っていた。


鍵のかかった引き出しの中、ベッドの下にあるこれ又、鍵のかかった箱の中。
この部屋にはローの知らないものが多すぎる。
自身もそうだと気づき、それでも一応は留めていた。
腕を買い、途中で仲間に迎えたものの
未だ不明な点が多すぎるに手を出した事実がそもそも間違いだっただろうか。
最近、ふとそんな事を思う。
全てが偽りだとは思わないが、
後だしのように真実を曝け出される事は余り望まないからだ。
しかし、未だ側からの真実はお披露目されず。
なぁ、お前。腹の中で何を企んでやがる?


「最悪。うっかりしちゃったわ」
「心ここにあらず、だからじゃねぇのか」
「何よ、唐突に」
「いいや、別に」


あえて露骨な態度を示そうともは動じず
(まぁ、この程度で動じるわけもないが)ガラスを集めゴミ箱に捨てている。
あのグラスのように木っ端微塵になるのだろうかと思えば、
ちっとも笑えないと気づいた。
俺も嘘は上手いが、手前も大したもんだな
一体、何を隠している。


「…お前、タバコ、変えたのか」
「タバコ?」
「葉の匂いが変わったよな」


一つずつ掴まえていた証拠を小出しにし、反応を伺う。
こちらに背を向けているの表情は伺えない。


「タールを落としたからじゃない?」
「何で」
「何か、キツくなったから」
「なら、止めろよ。丁度良いじゃねぇか」
「それは、無理」


片づけを終えたがようやくこちらを向いた。
特に変わった様子はない。
こちらに来いと指先で誘い、手の届く距離に近づいた時点で腕を伸ばす。
他愛もない戯れか、それとも息の根を止める戯れか。


「…何?どうしたのよ」
「…」


疑いを持った癖に追求出来ない理由は、心を持ち出されたからだ。
この両目で目の当たりにしたらば、その都度やり方は変わってくるのだろう。
それでも強かな彼女は正体を、証拠を残さない、見せない。
こちらの力量不足だ。今の所は。


「眠ろうぜ、もう。なぁ、
「別に、いいけど」


只、離れたくないだけだと知っていた。
迂闊に突っ込めば離れざるを得なくなる。
そんな危険性が格段に上がる。
まだ正体を見せないのならば甘んじて受け入れようか。まだ、今の所は。


明かりを消したが隣に横たわった。
彼女の鎖骨に額をつけ、目を閉じる。
僅かに変わった葉の匂いが香り、




酷くい吐き気がした。











…主人公は浮気をしているのかどうなのか。
ご想像にお任せします。
明るくない上に残るもやっと感。
何か、すまん。ロー。
2010/3/1

AnneDoll/水珠