いつか消えてなくなる前に





真夜中の帳を一気に壊した。
目撃者はおらず、長い影ばかりが存在を増す。
そもそも鍵なんて何の意味もなさないし、開かないドアは破ればいいだけだ。
行儀なんて誰も教えてくれなかったし、今更習うつもりもない。
ガラスの破片を踏みながら遠慮なしに室内へ入り込む。
迷う事無く奥へ進み、もう一つドアにぶつかった。
今度は破らず、ノブに手を伸ばす。


「…誰!?」
「いよぉ、元気そうだな」
「ロー…!?」


すっかり腑抜けになってしまったの姿を目の当たりにし、
大きな溜息を吐き出した。
これまでの彼女ならば、眠る際に寝巻きに着替えたりしないだろうし、
そもそも寝具で眠ったりはしなかった。
ああ、それなのに。それなのにだ。
一体、お前、どうしちまったんだ。


「…何の用なの」
「随分な言い方じゃねぇか、
「こんな真似をして」


何だと言うのか。


「あの人が戻って来る前に、早く出て行って」


はこちらを見据えたままそう言った。
シーツを掴む指先に力がこもっている。気づかない振りをした。
彼女の動揺に気づかない振りをだ。
そんなものに躓いていれば身動きが取れなくなる、
それは以前、お前が俺に教えたんじゃねぇか。


後ろ手でドアを閉め、深く息を吸い込んだ。
はベッドの上に座り込んだ状態から動いていない。
奥歯をかみ締め、こちらの出方を伺っている。怯えているのだ。


「お前の言ってた通り、上ってみたが何一つ変わりゃしねぇぜ」
「あたしを恨んでるの?」
「…いいや」
「あんたを裏切った、あたしを」


ここにきてようやく彼女の口から真実を聞く事が出来た。
の唇は微かに震えており、望みもしない沈黙が訪れる。
只、失った彼女に会いたいだけだと思っていたが
(それこそ純愛の類だとさえ思い違えていた)
どうやらそんなに美しいものではなかったらしい。
憎しみだ。そうして恨み。
そんなものにより執着を生み出していた。


ゆっくりと一歩を踏み出し、に近づいた。
何をしたいのか、どうするつもりなのかは分からない。
の言うあの人とやらが戻って来るのならば始末するだけだし、
気持ちとしては彼女を迎えに来ただけだ。それなのに。


「行くぞ、
「…」
「まだ何も終わっちゃいねぇよ」


付き合いきれなくなったと吐き、
裏切るように姿を眩ませた女を目前に、
しつこくも腕を伸ばす自身を知っている。
知ってはいるが、その中、心だけを知る事が出来ず、
俯いた彼女の腕を強く掴み、無理やりに立たせた。
幸せになんかなれない事は知っていた。











まぁー。
どうにもしようのないローでした。
逃げた女を追ったロー(心知らず)
主人公の言う、あの人は何だろう、
お好きな海軍でどうぞ。
2010/3/6

なれ吠ゆるか/水珠