視線を感じ始めたのはいつ頃からだろう。
そうして、囚われていると思ってしまったのはいつ頃なのか。
シャンクスと出会った時期と丁度合致しているような気がする。
別に悪意があるわけではないのだろう。最初はそう思っていた。
街中で出会う確立が異常なほど高かったり、
何かしらに傷つけられた時、絶妙なタイミングでフォローに入る。
運命を信じていないわけではないが、余りにも出来すぎているとは思っていた。
生まれの問題なのか、自身の問題なのかは分からないが、
どうにも生き難いわけだ。
通常の人間ならば立ち直れない程の難問が彼女を待ち構え、一斉に攻撃してくる。
これまで生きてこれた事が奇跡に近い。
「…もう、我慢も出来ねぇんじゃねぇのか」
「シャンクス…」
「いいんじゃねぇか。全部、捨てちまっても」
「どうして」
続くべき言葉は数多くある。
「そうしたら、お前は俺のモンになる」
視線を上げ、シャンクスを見つめた。
この男は既にこちらを見つめていたらしい。
二度と逸らす事が出来ない程がっちりとかち合い、息を飲んだ。
仲間になるか、敵になるか。
簡単な二択だけを差し出される人生だ。
様々な思惑を読み、最も危険性のない道を選んできたつもりだ。
だから、目前のこの男に対し恐怖を抱いている。
防御策が通用しないから。
「あたしをどうするつもりなの」
「どうも、しねぇさ」
「そんなに強く揺さぶる癖に」
「可哀想だと思ってなぁ。小さな背中に色んなモンを背負って」
「知った風に言わないで」
そんな口を叩く輩は腐るほどいる。
そうやって心を揺さぶり、隙を見計らい突いてくる。
外側を幾ら強靭に作っても、所詮中身は脆弱なのだ。
何度崩されたか。そうして苦しい思いをしながら再生を繰り返す。
だからは誰も信じない。自分自身でさえもだ。
信じなければ傷は負わず、平穏な生活を営む事が出来る。
「それに、もうお前にゃ何もねぇだろう?」
「…」
「結局、俺以外の何も残らねぇのさ」
お前には。
その先に続く言葉を想像したくなく、目を伏せた。
シャンクスの指が頬を撫で、唇へ到達する。
まるで自分以外は必要がないと言いたげな指先に視線を奪われていれば、
思考回路が麻痺したように物を考えられなくなり、目を閉じる。
唇に舌が触れ、無理矢理に割り込んできた。
目を開ける気力もなく、全てを受け入れる。
もう、この身体さえも不必要なものに思え、
自分自身でさえ残らないのではないかと、そんな事を思っていた。
暗!お頭、暗!!
2010/3/10
なれ吠ゆるか/水珠 |