何も知りたくなかった





約束を余り守らない性質だと知っていた。
そもそも、予定なんてたてるタイプではないし、
現にローと会う日だってタイミングだけで成り立っている。
たまたま街で遭遇し、その流れで酒の一つでも飲み、
それからズルズルと夜を共にするだけだ。
引き摺る夜の最中に翌日の予定を口にする。


まあ、そんな場合、目の前にはいるもので、
よっぽどの急用がない限りは反故にされる事はない。
問題は日にちが経過した場合に生じる。
一日でも空けば、彼女との約束はほぼなかった事となる。
悪びれもせず、言い訳もしないに投げる言葉も見つからず、
何となくだがそういうものなのかと(半ば無理矢理)納得をしていた。


だから、その日も特別な事はなにもなく、只来なかっただけなのだ。
急用が入り行けなくなったと彼女からの連絡が入り、
一体どういった急用なのかと聞く事もせず(酷く無意味な気がするからだ)
暇を弄んだまま街中をぶらつく。それが間違いだった。


互いの私生活には極力立ち入らない関係を築いていたのに、
急用があるはずのを目撃してしまったのだ。
ローと会う時とはまったく違い出で立ちに思わず振り返る。
彼女の急用がどんなものなのか。
これまで興味のない振りをし、完全に無視を決め込んでいたものの、
いざ目の当たりにしてしまえば気になった。
気づいた時には足は進んでいて、
人ごみの中を颯爽と掻き分ける彼女を付けていた。


ロー同様、も賞金がかかっている。
二人で会う時には気にしていない素振りだったが、
こんな街中を一人でうろつく際にはある程度の危機を避けられるように、
まったく別人のような格好をしているらしい。
あんな様子では、恐らく誰一人と気づかないだろう。
どんどんと人ごみを抜け、街の外れへ向かっている。
少しだけ嫌な予感はしていた。


互いの私生活に触れない接し方をしている理由と同じだ。
嫌な思いをしたくないから、嫌なものは目にしたくないから。
それでも、そんな状態を続けていれば足りないものを満たしたくなる。
圧倒的にの情報が足りないから、もっと知りたくなる。なった。


日差しは明るいが、まだまだ空気は冷え切っており、
太陽との距離が異様に遠い。嫌なものを見てしまう予感だ。
生活のサイクルとしては、ローと会っていない時間の方が圧倒的に多いし、
その点を追求してしまえばどちらが偽りなのかは余りにも明白になってしまう。


「…」


離れた彼女は一人の男に出会い、親しげに話をしている。
男の腕が腰に回った。
特別な行為にはとても見えず、極自然に二人は歩き出す。
これが真実だ。恐らくは。
隠していたわけではない、ローが目にしていなかっただけ。
彼女の身の回りに見え隠れする色んなキーワードを見ないようにし、
只臆病な思いを暖めただけだ。


いざ現実を目の当たりにし、冷えゆく心を知っていた。
次に顔を合わせる時の事を考えたが、
何事もなかったかのようにそ知らぬ振りをし、恐らくに手を伸ばす。
彼女の身体がそこにあって、唇がローの名を呼べば
もうそれだけで構いはしない。


信じるだとか、信じないだとか、
そういった事では既に収まりきれなくなっている。
只、愛しくて、恋しくて。
最終的に立ち直れない程の傷をつけてやりたいと思っているだけだ。











ローが最悪なめにあうという話に!
ごめん、ごめんロー。
言い訳も見つからないと言う有様。

2010/3/14

なれ吠ゆるか/水珠