の行方は誰も要らない





思わず腕を伸ばしていた。
そうして二度と逃さないように掴み引き寄せる。
突然の行動に酷く驚いた様子の彼女は振り向き、そうして動きを止めた。
まるで時間そのものが止まってしまったようで、雑踏の音さえも消えうせた。
こんなに人々で溢れかえっているというのに、
すれ違い様、何の迷いもなく腕を伸ばしてしまった。


こんな状況を何度思い描いただろう。
そうしてその都度、後悔ばかりを募らせた。
馬鹿馬鹿しいと笑い、己を戒めたのに。
それなのにやはり目の当たりにしてしまえば、
惨めな己を抑える事は出来なかった。


「…何、よ」
「…いや」
「離して」


小さな声でが呟く。
泣きそうな目をしていると思い、
そういえば思い出の後半は全部そんな眼差しだったと、記憶ばかりが蘇った。
短く切られたはずの髪は肩の下まで伸びているし、
記憶の中の彼女とは幾許か様子も変わっている。
が髪を切ったと耳にし、そうして姿を見かけた際に
抱いた感情は虚しさで、彼女なりにケリを付けたかったのだろうと察した。
何も変える事は出来ず、時間に飲まれていく自身を諌める術は持たなかった。


「あたし、用事があるから」
「なぁ、
「急いでるのよ」
「俺の話を聞けよ」


今更、どんな面を下げて。
口を開いたと同時にそう思う。


「何を―――――」
「悪かった」


俺が悪かった。
初めて謝罪の言葉を口にした。きっと何よりの本音だ。
数え切れないほど喧嘩をしたが、一度として謝った事はなく、
例えこちらが悪いと分かっていても折れる事は出来なかった。
詰まらない意地が邪魔をしていたからだ。


「何よ…」


何よ今更。
やはり泣き出しそうなは眼差しを歪め俯いた。
諦める事に慣れていないのだ。
だから、無理矢理にでも取り戻したくなる。それが間違いであっても。
間違いかどうかなんて、まだ分からないけれど。


あの時のさようならの意味を力ずくでも捻じ曲げようとしたスモーカーは
俯いたの腕を放せずにいる。
正しいのか正しくないのか、そんな事は未だに分からないまま
前に進もうとしたスモーカーがの前進を邪魔したとしても、
きっとそれは仕方のない事で、




愛の行方は誰も要らない。











最近スモーカー率が高い気がする。
まあ、より戻したい感で。
スモーカーはこれ、仕事中・・・?

2010/3/17

なれ吠ゆるか/水珠