忘れかけた劣等感





「…おい、お前」
「…あの、さぁ」
「何してくれてんだ、お前」
「笑えるんだけど。いやいや、それってあたしの台詞じゃないの」
「馬鹿かお前。今この状況で一番参ってるのは誰でもねぇ、この俺だろうが」


こんな田舎町の海軍に捕らえられたとなれば、
一応ルーキーとして名を馳せている身分としては、笑えないわけだ。
何故こうなった。何故、こんな事になった。
海桜石の手錠をかけられたキッドは胡坐をかいた状態で一人考える。
そもそも、現段階でが隣に座っている理由も分からないのだが、
まあその疑問は一先ず置いておこう。


まず、こんな寂れた町に用はないと言いながら船を降り、
盛り場を探せどあるわけもなく、酒を出す店を探した。
それはの希望だ。だから、面倒臭いが探した。
そうして酷く小さな造りの酒場を見つけ、ゾロゾロと徒党を組み中へ入れば、
壁には賞金首のポスターが所狭しと貼られていたわけで、
こいつはいいツマミが出来たものだぜ、
なんて事を言いながら酒を頼んだように思う。
青ざめた店主は黙って酒を出し、顔色を変えるくらいなら
こんなものに目眩むなよと笑ったような記憶がある。
そういえばの発言がまったく思い出せない。
何故だ。


「つーか、お前。何でこんなモン持ってんだよ」
「あたしがかけられた時に、ついでに貰ったのよ」
「はぁ?何でお前が」
「知らないわよー。能力者だとでも思ってたんじゃないの」
「お前の馬鹿力は生まれつきだってのにな」
「キッド、今、自分が置かれてる状況を把握出来てないの?」


唐突にが暴れだした理由は、何もアルコールの仕業だけではなかったらしい。
元々、酒癖の悪いの事だから、
最初の内は皆、又いつものヤツかと高を括っていた。
キラーがやれやれと溜息を吐き、キッドがうるせぇと怒鳴り―――――
どうしてあたしのポスターがないのよ。
のその発言により、今回の騒動はでかくなるぞと腹を決めた。


キッドやキラーが高額の賞金首になった辺りには仲間に加わったわけで、
その時点で彼女の力は相当なものだったわけだ。
それでも運がいいのか悪いのか(恐らくいいのだ)
懸賞金はおろか、素性もばれていなかった
(元々酷く性質の悪い女だった癖にだ)
海軍に、その存在すら認識されていない。
彼女の起こした事件は多々あれど、姿を確認されていないのだ。
そうしてその事実はに多大なる怒りを抱かせた。
このあたしが懸賞金一つかかってないって、どういう事なの。


その話題が出始めれば矛先はキッドとキラーなわけで、
その都度、そんな面倒臭ぇもんがついてねぇだけマシじゃねぇかと吐くキッドと、
お前は強いんだから大丈夫だと宥めるキラーは
結構な時間を費やしなければならなくなるわけだ。
正直、非常に面倒だと思っています。


「まぁ、何はともあれだ。外せ」
「えぇ?」
「そもそもがお前のせいだろうが!外せ、馬鹿が!」
「そんな言い方で外してもらえるとでも思ってるの…!?」
「何だ?あぁ、分かった分かった」
「何よ」
「なぁ、。お前は強ぇよ。
 この俺なんかよりもよっぽど強いぜ。ほら、外せ」
「馬鹿にしているの…!?」
「何だ?面倒臭ぇ女だな!」


キラー達が助けに来ない所を見れば、
又、例の面倒(による、の為の、だ)が
続いているとでも思っているのだろう。
酒に飲まれたは毎度の如くキッドに喧嘩を売り、
そうしてまんまと買ってしまっただけだ。


何だかお約束のようで、そうせざるを得なかった。
だなんて理由は言い訳にもならないか。
そうしてはキッドに手錠をかけた。
その直後押し寄せる田舎の海軍に捕まった理由は何だろう。
ああ、思い出した。


「明日付けで本部に送還してやるからな、ユースタス・キッドとその女
「ふ ざ け ん な―――――!!!」


その女呼ばわりされたは鉄格子を軽々と破り、壁に大きな穴を開けた。
やれば出来るじゃねぇかと呟いたキッドは、
混乱の最中颯爽と姿を眩ませ、停泊している船へ戻る。
何事かと驚いたクルー達(しかし、こいつらもこいつらだ。
幾ら、毎度の事だと思ったからって、普通にくつろいでるんじゃねぇよ)
に錠を開けて貰い、やっぱり毎度毎度、面倒臭ぇと思いながらの元へ向かった。











海桜石祭第一作目はキッド。
キラー夢『Rocks』の主人公だったんですよ。
まあ、彼の裏はまだ書けない様子。

2010/3/29

なれ吠ゆるか/水珠