結末はキス





怪訝な表情のままこちらの様子を伺うを見つめながら、
まあどちらが先に視線を逸らすか、だなんて事を考えているわけだ。
先に逸らしたからといって何がどうなるわけでもないが、
何となくが先に逸らすだろうと予想する。
が視線を逸らした。
俺の勝ち。根拠もなくそう思う。
関係の有意性が問われるわけだ。


「…何なの?」
「何だと思う?」
「質問に質問で返すのはやめてよ、ロー」
「そりゃあ、悪かった」


不服そうな彼女の表情だけでもう十分だと、
恐らく昨日までの自分なら言えただろう。
何とまあ無駄な時間を費やしていたものだ。
顔を合わせ、言葉を交わし、相手の言動、表情を満喫し、
それだけで満足していた日々。
決して嫌いではない。
むしろ、そんな恋愛ごっこは楽しめる性質だが、
そんな事を言ってられない状況になったのだ。
まあ、それも全部お前の所為。


「俺とお前が出会って、もうじきそうだな、一年くらいたつ」
「そうだっけ?もっと長いのかと思ってたけど」
「いや、調べたんだ、間違いねぇ。大体一年くらいだ」
「(調べた…!?)で、何?」
「相変わらず仲間にならねぇお前が
何だかんだと俺の船に乗り込んで、一年くらい経過したって事だよな」
「そうですね」


気に入ればもれなく手放したくなくなり、
船長の権限を使い仲間にしてきたが、
この度のターゲットは中々手中に収まってくれなかった。
まあ、仲間達も恋愛ごっこが終われば女を持て余すローを知っており、
当初は余りいい顔をせず(まあ、その辺りは無言の圧力が効果を示すだけだ)
それでもと顔を合わせる回数が増えれば、
愛だの恋だのは置いて、仲睦まじくなっていった。
多少なりとも複雑な心中でその光景を見守れど、
いつまでたってもこの女は仲間にならず、
それなのに船に乗り込むわ、一体お前は何なんだよ。


「分かってるだろ、。俺は初っ端に言ったよな」
「一年も前の事なんて覚えてないわよ?」
「なら、何度でも言うぜ俺は」
「結構です!」
「おい」


きっとは知っているし、気づいてもいるはずだ。
この部屋の室温の上昇の理由や、今まさに対峙している理由に。
同じ船にいるからといって、ローとが二人きりになる事は余りない。
何故か。が意図的に避けているからだ。


「何なんだよお前」
「ごめん、本当ごめん、ロー。出て行くから」
「何言ってんだ、お前」
「何れこんな日が来るだろうって思ってたから」


この俺がここまで露骨に愛情表現を示しているというのに、
この女はこの期に及んで逃げようとしていやがる。


「逃がさねぇ」
「ロー」
「ここまで来て、逃がしてたまるか。普通に考えてもそりゃねぇだろ」
「仲間には」
「もう、知らねぇ。仲間だとか、そんなもんは」


只の言い訳に過ぎねぇ。
ドアに向かう彼女の手首を掴み、きっと必死に抱き寄せた。
自分のペースが崩される事をあれだけ嫌うのに、
まったくこれは誰のペースだ。
腕の中で固まったのペースでは決してないだろうし、
想像通りに事が進まないと苛立っている自分のペースでもない。


腕を離せば逃げてしまいそうで、
だからといって次の行動を選ぶ事も出来ないまま、
時間だけを持て余していれば
空気の読めないクルーがドアを開けてしまったわけで、
何故かキャスケットの方が赤面したまま勢いよく踵を返した。











キャスケット落ち、という。
比較的あまーいローでした。

2010/4/2

なれ吠ゆるか/水珠