浅い眠りは何も生まない





喜怒哀楽の割合が分からなくなり、
それこそ随分な時間が経過したような気がする。
元々、そう感情豊かなタイプではなかったが、面白いか面白くないか。
その二つが人生の大半を占めるようになったからだ。
別に悪い事とは思わず、潤滑に生活は回転している。
そんなドフラミンゴだから余り過去を振り返らない。
昨日の事さえ思い出さない人種だ。


深酒の結果、余りにも深い眠りに落ちた翌日。
霧雨が街中を抱いたような夕方に目覚めれば、
夢の延長のような映像が頭の中に浮かび上がった。
夢を見ていたかさえ覚えていないというのに。


「…あァ、そうか」


額に手を置き、枕に突っ伏せば
痺れたような痛みが二日酔いを増長させた。









は優しい女だった。
優しさ等、微塵も持ち合わせていない自身が
認めざるを得ないほど優しい女。
誰かの為に傷つき、涙を流す事が出来るような女だった。
馬鹿な女だと、思っていた。


海賊でも海軍でもない彼女は、
海賊やら海軍やらに酷く好かれるという稀有な性質を持ち合わせており、
優しいはずの彼女の周囲は常にいざこざで溢れていた。
癒す力を持った彼女を皆、求め、争いを経て手にする。
は悲しそうな顔をし、争いを嫌っていたが、
そんな気持ちでどうにか出来るような小さな問題ではなくなっていたらしい。
ありとあらゆる傷を治す力。
僅かでも命が残っていれば、それは全て瞬く間に完治する。


「…何だぁ?手前は」
「後、一時間は安静にしてないと駄目よ」
「…フ」


目の前が真っ赤に染まった記憶から先を覚えていないだけだ。
元々、打算的な性格が幸いし、
自分よりも力のある相手をスルーして来たが、
今回ばかりはミスった。思わぬ力を持っていた。


「妬かれちまうな、こいつは」
「馬鹿な事を言わないで」
「お前に、助けられるなんて」


の噂を聞きつけ、どんなものかと近づけばこの有様だ。
真摯の皮を被った男達は牙を剥き、血の気の多いドフラミンゴを煽った。
こんな辺境の地で何をやっているんだとも思ったが、
暇つぶしになると受けた。まあ、若気の至りというヤツだ。


「ちょっと…!」
「なァ、。こんな部屋に閉じ込められて、詰まらねェとは思わねェか」
「まだ動いちゃ駄目よ!」
「世の中にはもっと愉しい事が山ほどあるんだぜ」


痛む身体を無理に起こし、の手を取った。
こんな僻地よりも、もっと栄えた街の方が馴染んでいるし、
自分のテリトリー以外の場所で眠る事は好きでない。
こんな僻地は一刻も早く出て行きたい。
を小脇に抱え窓から飛び出せば、
この女に目眩んだ輩が羨望の眼差しでこちらを見上げる。
高笑いをしながら連れ去った。









結果的に言えば、を連れ去る事は出来なかった。
ドフラミンゴは失敗したのだ。
大陸を横断する列車内で海軍の検問に引っかかった
ドフラミンゴをは逃がした。
たった二人の乗客しか乗せていなかった車両は余りに静かで、
それだけが世界のようだった。


検問がもうじきあるだろうと告げたドフラミンゴに対し、
怪我が完治していないと返したは、逃げてくれと呟く。
逃げるも何も、俺はお前をさらったんだぜと笑えば、
様々な景色を見せてくれてありがとうと、こちらも笑った。
向かい合い、初めてサングラスを外し、の目を見つめる。


ありがとうだなんて、感謝される筋合いはねぇぜ。
目を見てそう呟けば、肉眼で捕らえたの眼が笑みを称えるものだから、
すぐにサングラスをかけた。心が透けそうだったから。


「…まったく、嫌な天気だぜ」


目を閉じたまま二日酔いと戦えば温い眠りがゆっくりと襲って来た。
まったく、惰眠を貪れば貪るほど詰まらない夢ばかりを見る。





連日ドフラミンゴ。
プチ、ドフラ祭。
何かさーこう、過去をさー
模造したかったんだよ…

2010/4/19

なれ吠ゆるか/水珠