少年の面影は消えて







時代は流れ、世界の形も変わる。
只の傍観者に徹する事が出来れば問題は起こらなかったのだろうが、
どうにも時代がを手放したくないらしい。
願いを叶える為に得た力が足を引っ張る事になろうとは夢にも思わず、
あの悪魔の実を得た際に吐き捨てられた言葉を思い出す。
汚いやり方で悪魔の実を手に入れた。


「…閉めるのかよぃ」
「そうなのよ」
「これから、どうするつもりだよぃ」
「まだ考えてないわねぇ」


ドフラミンゴが七武海に加入して以来、生き難くなった。
あの一件後、怪我の治ったを待ち構えていたのは、
同じく怪我の治ったドフラミンゴであり、
店を開ければその都度顔を見せるようになった。
この女は俺のものだと大口を叩くあの男は、
人目を憚らず馴れ馴れしい態度をとる。
経営自体が出来なくなった。


レイリーやシャンクスといった昔の仲間が顔を出す時も、
店の奥のテーブルでじっとこちらを伺っているあの男に辟易としていた。
一人、二人と馴染みの客が姿を見せなくなり、いよいよ腹を括った。


「厄介ごとに巻き込まれてるみてぇだが」
「よくある話よ」
「どうしてお前が逃げなきゃならねぇ」
「…」


どこかで聞いたような言葉だと思い、振り返る。
所在無さ気なマルコがそこにおり、少しだけ笑った。









何もかもに腹が立っていた。
物心ついた頃からこちらを殴り、
まるで畜生のように扱っていた両親にも、
あの貧しい国にも、脆弱な自分にもだ。


もし、殺されないのなら何れ殺してやると思っていた矢先、
どうやらの殺意に感づいたのだろう両親は、彼女を売った。
あれだけ憎んでいたにも関わらず、その事実を聞かされた時の衝撃だ。
涙を流した自身を何よりも嫌悪した。
人買い達は海を渡りのような子供を買い付けていたらしく、
船の中には同じような年の子供が沢山いた。


船に乗せられ二日目の夜、男達の叫び声が船内に響き渡り、次に衝撃が襲う。
貯蓄庫に隠れたは、隙間からロジャーの姿を見た。
彼らは、この船が人買いの船だとは思っていなかったらしく、
どうやら勘違いの延長だったらしいが、
まあその勘違いのおかげでは命拾いをした。


翌朝、何もなくなった甲板に一人立ち、これから先の事を考える。
明日の事を考えるのは初めてで、その日以来ロジャーを追いかけた。









極悪、残虐。
そんな呼ばれ方をされているとは思わず、
只ルーキーとして名を上げていく感触に
僅かながら高揚感を得ていた事だけは確かだ。
どこへ行っても名が知られているという優越、欺瞞もあった。
新世界に入り、これでようやくロジャーを探す事が出来ると思った。


女が生意気な口を叩くなと言われ、下卑た言葉をかけられ、
それでも一瞥し平伏させる程度の力は持ったが、
ようやく見つけたロジャー達にしてみれば、
お嬢ちゃんのお遊び程度のものだったようで、相手にもされなかった。
動揺した。


誰かの為に何かをする事がなかったにとって、
なす術がないとはこの事で、正直な所落胆の極みを味わった。
それまで、よっぽど身勝手な生き方をしていたのだと思う。


一回り以上も年の離れたを、
まるで子供のように扱うロジャー達は、
又いつでも遊びに来いと笑った。









逃げているわけじゃないのよと答えたの真意に、
恐らくマルコは気づいていない。
マルコの気持ちをが察さない理由と同じだ。
ロジャーが死んでから、これまでずっと逃げてきたようなものだ。


逃げる事を選んだ時点で下らない奴だと諦めればいいものの、
利用価値を見出したドフラミンゴは手を伸ばした。
利用価値は自身でなく、その能力と過去だ。
思い出を後生大事に生きていこうと思っていたが、
どうやらそれも出来ないらしい。


「あんたとも、これでお別れね。マルコ」
「…」
「楽しかったわ、ありがとう」


露骨な別れの言葉を囁くに腹が立って堪らない。
立ち尽くすマルコにはハグをし、背中を数回、軽く叩いた。
抱き返す事も出来ないまま、ありがとうも何もないと思っていた。


えっ…続くの?アダルト組…
と思った方も多いと思いますが、
私も正直思ってます。まさかの展開さ。
若マルコが完全に蚊帳の外なんですけど、
きっと何れ絡むはず。がっつり絡むはず。


2010/4/23
pict by水珠