ゆえに、臆病になる





戦い開けの船内は、それこそ嵐の後の静けさで、
何かしらの血潮だったり、何かしらの欠片が転がっていたりするわけで、
一番怪我の度合いが小さな奴等が掃除をする事になっている。
怪我を負わない程度の戦いならば、皆でする。


それにしても昨晩の一戦は、これまでの中でも一番の厄介さを兼ね備えていた。
能力者が嫌に多かったり、途中からそれなりの海軍が参戦してきたりと正直、散々だった。
挙句、足場も悪いとなれば最悪だ。能力者をキッドに振ったは、
海桜石の武器を持った輩に向かい、一通りの手順は踏んだのだが、珍しく怪我を負った。も。


まあ、が怪我を負ったからこそ
(彼女は余り生傷を作る事がない為に、どうにも免疫がないらしい。馬鹿げた話だ)
相手に対し、壊滅的な打撃を与える事が出来た。
恐ろしい女がいたものだと呟いたのは確かキラーで、
ようやくこれであの女も(無論の事だ)賞金首の仲間入りをしたんじゃないか、
だなんて妙な安心さえ抱いてしまった。


自室からまだ出て来ないは眠っているのだろう。
戦いも終わり、ある程度船を走らせた辺りに、
ボロボロの身体を引き摺りながらタバコを吸っていた彼女は、少しだけ清々しい顔をしていた。
中々の腕じゃねぇかとキッドが笑えば、あんたもね、だなんて珍しい言葉を吐くものだから、
こいつはこのまま死んでしまうのではないかと逆に心配をしてしまった位だ。
まあ、そのまま体力の限界を迎えたはコトリと寝入ってしまい
(しかし、その瞬間は死ぬほど焦った)毎度の事ながら、キラーがを運んだ。


が肋骨を二本折っている事を知ったのはその後になる。
しんどそうな顔をしてはいたが、まさか骨を折っているとまでは思わず、少しだけ驚いた。
日ごろは類を見ないほど騒々しいあの女が大人しく寝ているとなれば、
傷の程度も容易く理解出来る。
大人しくする事も出来るのだと、意外に思った。


「…よぉ」
「あいつはまだ寝てんのか」
「ああ、まだ寝てる」
「怪我の具合は」
「回復に向かってるらしいがな」
「まぁ、静かでいいじゃねぇか」
「まぁな」


それなのに何故だがそわそわするわけで、先ほどからキッチン内をうろついている。
あんなにでたらめな女がそう簡単にくたばるわけはないし、
言わせてもらえば只の骨折だ。命に別状はない。
骨折なんてキッドもキラーも他の皆も頻繁にしているし、
そもそも今まで何故、骨の一つも折らなかったのかという話だ。


「落ち着けよ、キッド」
「落ち着いてるじゃねぇか、俺は」
「…そうか?」


うろつく足を止め、じっと座ったキラーに視線を移せば、
こいつはこいつで靴を左右逆に履いているものだから、何だか妙に気が削げた。









「ちょっとー!えぇー!?何で一週間も経ってんの!?」
「知らねぇよ、寝てたからだろうが」
「起こしてよ!一週間って、あたし寝すぎじゃない!?」
「俺は何度か起こしたぞ」
「えぇー?」
「起きたら起きたでうるせぇな」
「もう、超お腹減ったんだけど!」
「ていうか、何でお前、もう骨折が治ってんだよ」
「え?あたし、骨折してたの?」





キラーの『Rocks』、キッドの『忘れかけた劣等感』
の主人公です。共通主人公。珍しいという。
完全なる仲間話になるんでしょうか。

2010/5/3

なれ吠ゆるか/水珠