何も知らなくてもすくえる





あの女がずっと一人でいる理由は知っている。
まあ、元々が誰かに依存するタイプでもないのだから、
環境の仕業にしてしまえばそれで話は終わるのかも知れない。
もう仲間も恋人も何もかも要らないと思うほどの何かがあり、そうしては気づいた。
ハナから何も持たなければ何も思わない。失くす事も裏切られる事も傷つく事もない。
恐らく、少しだけ。ほんの少しだけ心が疲れてしまったのだろう。
誰も責める事は出来ない。


まあ、他人の生き方に口を挟む趣味もない為、目で追うだけにしている。
仲はいいが、深い部分にまで踏み込まないというヤツだ。
年を取ればそんな付き合いが数を増し、違和感なく振舞えるようになる。
距離を置くのは、自分もそれを望んでいるからだと知っていた。


皆で話をし、会話の内容は猥談になる事も度々だが、
動じる事なく、卒がない返答を返すの心は未だまったく読めない有様だ。


「何言ってるのよエース、あたしは港ごとに男がいるのよ」
「ほぅ、そいつは聞き捨てならねぇな。なぁ、マルコ」
「俺に振るなよぃ」
「あんた達と同じ、男も女も海賊はみんな同じって事よ」
「そんなに擦れちまって、悲しいねぇ」
「擦れてなんてないけど」
「諦めが先に出た女ってのは総じて悲しいもんなのさ」
「本当に失礼な男よね、あんたって」


呆れたように片眉を上げたは、すっかり温くなったビールを煽った。
白い喉が音を立てて飲み込む様を見つめる。意識はせずに。
上下する喉を見つめていれば、
ビールと共に嘘を飲み込んでいるようで、居た堪れなくなった。
こんな気持ちには気づかなくてもいい。


「何見てるのよ?マルコ」
「…何も見てねぇよぃ」
「あたしの気のせい?」
「馬鹿な女だよぃ、本当に。お前は」
「えっ、突然何?」


この船の中で臆病にも心を開けずにいる彼女は、
気持ちのいい距離感を優先し心を殺している。
そのままでいいのなら、甘んじてその距離を受け入れようとマルコは思い、
何が言いたいのかとしつこく聞いているから視線を外した。
だからは、エースの言葉の真意にも気づかず、
マルコの言葉の真意にも気づかない。まだ、二人にはなれない。





何て言ったらいいのか、この話…

2010/5/3

なれ吠ゆるか/水珠