線路、香炉、月明かり





まったく、どいつもこいつもこの俺の手を煩わせやがると呟き、
一人見知らぬ国を歩いていた。
外を出歩くなんて事は酷く稀で、
四方八方を埋め尽くすような星空を目にするのも久々だ。
人々がいなくなった風景は静寂ばかりを増幅させる。
元々、煌びやかな世界を選び生きてきたドフラミンゴには縁のない世界だ。


俺の顔に泥を塗った馬鹿を手早く始末し、いつもの気まぐれに任せ歩く。
徐々に建物はなくなり、途方もない平野と、
その先に聳え立つ山が視界を埋め始めた。


そんな折、珍しく想像に暮れる。
の事を思い描いてみた。
人のものに手を出す癖は他愛もないゲームという感覚で常に付いて回る。
誰かが熱烈に愛している女に手を出すゲーム。
得るものは一つとしてないが、楽しい。
は今まさにそのゲームの商品となっている女だ。


気性は頷けるほど穏やかで、万人に愛情を注ぐ女。
この世の無常など微塵も関係のない女だ。
ドフラミンゴの統治する国の一つに住む彼女は、こんな自分の事さえ心配する。
下らない真似ばかりをする女だと思う。


今回も、命を弄ぶ事はやめろ、なんて間抜けな言葉を呟き、
仕切りにこちらを引き止めていたが振り切った。
人の仕事に口を挟むもんじゃあねぇ。
じっと目を見つめそう言えば悲しく笑った。
その仕草一つが美しく、やはり手放してはならない女だと確信する。


がいたからこそ、あの国を手中に収めたようなものだ。
君主制を強いていた古い国の若い王女。
七武海の会合で海軍本部に出向いた際、
そんな国の話を小耳に挟み、興味本位に近づけば、
その日は丁度建国記念日のセレモニーが行われており、その時に初めて目にした。
前触れもなく現れた七武海は歓迎されず、
その日のうちにドフラミンゴは国王を殺した。


自分の父親よりも年上の国王、その亡骸に縋り付き泣く彼女の姿を眺め、
次の感情は怒りかと予想していた。
激情に動かされたら支配は容易くなる。
それなのにはドフラミンゴに正面から向き合い、何故かと理由を問うた。
予想外の展開に笑い、尚更欲しくなった。


「…お出迎えか?なぁ…」
「同じ事を繰り返すのは止しなさい、ドフラミンゴ」
「お前みたいな女には、似合わねぇぜ。こんな国は」


ここは土くればかりだ。


「これ以上、命を奪うような事をしてはならない」
「もう、遅ぇよ」


金の刺繍に彩られたシルクのドレスが闇夜に輝き、
国境線に立った兵士達が視界に入る。
無防備に王宮から出てくるなと言いたいが、それは堪える。
誰かが待っているという未来を予想した事はなく、
そんな生活は決して望んでいないが、
何故だか無性に彼女が恋しくなった。
ゲームではなくなってしまう。そんな真似は。


「ドフラミンゴ」
「フ、何やってんだ、王女様が。こんなトコで…」


じっとこちらを見据えたの隣をすり抜ける。
彼女の指が空をかいた。
歩みを止め振り返れば、やはりはこちらを見ており、
腕を伸ばそうと思ったが、


やめた。





ドフラミンゴの年齢が
大公開された記念夢。
ナイス39歳!ビバ!39歳!
2010/6/6

なれ吠ゆるか/水珠