せめて、と華やかに散った





咳き込むように血を吐き出せば、
どうやらよくない箇所に傷を負ったのだろうと気づく。
至る箇所が死ぬほど痛むわけだ。
初めてだとは言わないが、余り慣れない痛みには違いない。
砂埃に塗れているわけにもいかず、地面を握り、身を起こした。
やはり咳き込む。赤黒い血液を吐き出した。
気道が嫌に狭く、ひゅうひゅうと煩い。


このまま死んでしまうのだろうかと、
ぼんやりとした予想が脳裏を過ぎったが
今はそんな事を考えている場合ではない。
死のうが死ぬまいが、まだ命も意識もあるわけで、
仮に死ぬとしてもだ。あの男に殺されたいわけだ。
今、はマルコと対峙している。


「…いい加減、諦めろぃ」
「嫌よ」
「…」


大きな溜息を吐き出したマルコは腰を下ろし、こちらを見ている。
死体の上に座りこちらを見ている。


「どうする、。立ってるのはもう、お前一人だよぃ」
「…はっ」
「売られた喧嘩は買うが、根絶やしにしようってわけじゃあねぇ。こっちはな」
「優しいのね」
「そうかよぃ」


だからこんな事になっただなんて言うのは余りに卑怯だろうか。
敵対する立場だとは知っていて、それでも惹かれた。
波風を立てないよう、口先だけの会話を楽しみ、
心奪われたなんて間抜けな話だ。


そんな心が透け、粛清されるかと思いきや、
まさかの報復行動に自身の浅はかさを知った。
後悔をしても同じだ。


あの人に吹っかけるなんて正気なの。
そう言ったに、船長でもあるあの男は言い捨てた。
仲間の心一つ繋いでおけねぇで、何が船長だ。
いや、それは違う。
いいや、違わねぇ。
皆を巻き込まないで。
皆もう知ってるさ。
その時点で既にバラバラになっていたのだと思う。
死なせたくねぇんなら、お前が守りな。


中心を崩したのは確かに自身だ。
だから、何も言えなくなった。


「ねぇ、マルコ」
「…」
「あたしが無様な言葉を吐く前に」


あたしを殺して。
恐らくマルコには知れていただろう。
こんな自分の浅い心は、とっくに。
愛しているだなんて軽薄な言葉で仲間を裏切った事など。
船長は我先にマルコへ向かっていった。
敵うはずはないと、も思っていたし、恐らく本人も思っていた。
だからはその続きを見る事が出来ず、他の戦いに明け暮れた。


「…そりゃあ、どうだかな」
「何よ、いいじゃない」
「俺ァ、お前の気持ちは分かってるつもりだぜ。
「…」
「後は、お前次第だよぃ」


お前が生きるか死ぬかは、お前が決めろぃ。
マルコの言葉はそこで途切れた。
強く抑えた腹部に視線を向ければ、足元にまで血が零れだしており、
意識が失われているのだと分かった。
真っ白い光が視界を埋めだし、強い吐き気と寒気が全身を襲う。


止め処なく溢れる涙は何の為なのか。
散った仲間の為なのか、情けない自身の為なのか。
まったく分からないまま地に伏せば、何故だか恐怖はまるでなく、
眠るように目を閉じる。


そんなにゆっくりと近づいたマルコは、
暫し彼女を見下ろした後、その身体を担ぎ上げ、船へと向かった。
の身体がどちらを選ぶのかは分からないが、最期まで見届けるつもりだ。





久々にシリアスマルコ。
何か、報われない感じがしないでもないです。
主人公の生き死にはお好きなほうをどうぞ。
2010/6/6

なれ吠ゆるか/水珠