啼いて跪いて





海軍からの強制召集も終わり、上辺だけ怠惰な日常が訪れた辺りだ。
毎日のように来客があるもので、
正直なところ辟易としていたドフラミンゴは、
今日は誰にも会わないと宣言し、悠々自適な時間を取り戻していた。


何をするわけでもなく、好きな音楽を聴いたりだとか、
高級な食材を一口だけ食べたりだとか、まあ時間の浪費を行う。
基本的に大事なものを無駄に消費させる事が好きだから。


温暖な気候のこの島は余りにも緩やかに時間が流れ、
つい先日まで行われていた戦争さえ嘘のように思える。
頭が鈍り、老け込んじまうぜとぼやいた。


どうにも、ここ最近、詰まらない事ばかりで気が滅入っているらしい。
何か面白い事はないかと、手当たり次第に首を突っ込んでみたものの、
甘い汁はとうに吸い尽くしているようだ。
残された楽しみは時代のうねりになるが、
流石に時代ばかりはドフラミンゴの腕一つでどうする事も出来ない。
中々に強靭な相手だ。だから、飢えた。


しかし、このままにしておくわけにはいかず、
どうにか飢えを癒そうと模索していれば、
どうにもドアの向こう側がざわついている。
ドフラミンゴが誰にも会わないと告げた以上、
無理を押して会いたがる馬鹿はいないはずで、まぁ仮に馬鹿がいたとしてもだ。
顔を見た瞬間に命はないし、そんな馬鹿を通した使用人達も命を失くす。
故に使用人達は死に物狂いで止めるはずだが―――――


「お久しぶり。殺しに来たわ、ドフラミンゴ」
「…おやァ?こいつは珍しい顔じゃねぇか…。てっきり死んじまったとばかり思ってたぜ…
「おかげ様で、貴重な体験をさせてもらったわ」
「だろう?普通じゃあ体験出来ねぇ貴重な時間を提供してやったんだぜ、俺は。少しは感謝でも―――――」


血の匂いが鼻腔を付き、
やれやれ又、新しい使用人を雇わなければならないと思っていれば、
どうやら自分が酷く愉快な気分に支配されている事実に気づかされる。


それにしても随分、久方振りにの姿を目にしたものだ。
時間の流れとしては、大よそ五年は下らない。
正直なところ、二度とお目にかかる事はないだろうと踏んでいた分、
中々の驚きを伴った。


「…老け込んだんじゃあねぇか?…それに、肌が荒れていやがる」
「インペルダウンに閉じ込められてりゃあ、肌も荒れるわよ。あんたも同じ目にあわせてやろうか」
「そいつは土台、無理な話だぜ。何せ俺は七武海だ」
「その狡猾さが嫌いなのよ、あたしは」
「別に好かれようなんざ、思っちゃいねぇが」


黒ひげがインペルダウンを襲撃した際、数人の囚人達が姿を眩ました。
最下層の住人達がだ。
まぁ、この女が奴らの仲間になる可能性は限りなく低い為、
好機をものにし、逃げ出したのだろうと予想する。
光の届かない闇に捕らわれていたの肌は青白く、以前よりも痩せていた。


「何をそんなにイラついてやがる。脱獄の祝いだ、いいワインを空けるぜ」
「要らない」
「何なんだ…あぁ、そうか。悪ぃ悪ぃ、あの時もワインだったな・すっかり忘れてたぜ」
「…!!」


まだ身体ばかりが大人だったあの頃、
確実に愛していたこの女をインペルダウンに叩き込んだ。
何故かと理由を問われたところで答える事は出来ない。
この女が旅立ちそうだったから、だとか
他の男を見る事に我慢がならなかったから、だとか詰まらない理由だからだ。


そうしてそんな理由を告げれば、まぁ、目前のは悪鬼の如く怒るだろう。
いやいや待てよ、。確かにこの俺から見ても、どうかと思うぜ。


「…で、だ。浮気なんざ、してねぇだろうな?
「!?」


何食わぬ顔でそう言えば、一気に室内が冷え込んだもので、苦笑する。
まずは退屈を打破する為に、この部屋一つを無駄にする事さえ厭わない。
色々と積もる話もあるだろうが、まずは楽しませてくれよと思い、指先を向けた。





性質が悪すぎるだろ、ドフラミンゴ…。
そういえばインペルダウンネタを使ってないなあと思いまして。
こんな罠みたいな男とは付き合えないだろ、普通…。
しかし、書いてる途中で
*58巻がどこまで掲載されているのかが分からない為反転
オニギリ君の顔が浮かんでしまい、大変だった…。
オニギリ君の隣の牢とかにいたらいいよ、主人公…。

2010/6/17

蝉丸/水珠