鮮やかな赤と、





至る所に温泉が湧いている、
観光地としては完璧な島に降り立ったキッド一行は
の強靭な意志により、この島で一番評判のいいホテルへ到着した。
どうしてわざわざ風呂に入らなければならないのかと言う、
キッドの最もな意見を一蹴し、
まぁ骨休めにはなるんじゃないかというキラーの同調もあり、
皆で向かう事となった。


一級品と呼ばれるだけあり、ゴージャスな外装と品のいいホテルマンに誘われ、
カウンターに向かえば当ホテルは完全予約制だという、
よくよく考えれば当たり前の宿泊制度を告げられ
逆上するの首根っこを掴まえたキッドは、そのままホテルを出るが、
まぁもそのままで終わるわけがない。


いいから、今日一日泊まらせよう(そうでもしなければ終わらない)
という結論に達したキッド以外の面子が必死に空きを探し、
穴場とも思える山奥の宿を見つけた。
その時点でキッドとは軽くやりあっており、
二人ともズタボロの状態だった為、
宿の人間からは怪訝な眼差しを向けられたが、
流石の客商売。口には出さなかった。


この組み合わせの部屋割りは非常に難しく、
当然ながらをどうするかという問題が生じたが、
同じ船内で暮らしている事を考慮し、今更気を使う必要もないと、
少し広めの部屋を借りる事となった。
それでいいのかとキラーが聞けども、
既に(温泉へ)気をとられているは聞く耳一つ持たず、
颯爽と消えていった。


「よし、じゃあ俺達も行くか」
「…どこにだよ」
「温泉だよ、温泉。何だキッド、お前、行かないのか?」
「温泉だぁ?何が悲しくて野郎と」
「いいじゃないか、疲れが取れるぞ」


案外乗り気なキラーはそう言い、
キラーがそう言うならと他の面子も立ち上がる。
何だかんだと言っていた割には、
既に浴衣へ着替えくつろいでいるキッドは
(こいつ、いつの間に着替えたんだ…?)面倒くさそうに視線を向ける。
まぁ、こんな展開で一人、置いていかれるのも嫌なわけで、
渋々ながらキッドも立ち上がった。














露天風呂が有名らしいと聞きつけたキラーにより
(どこで仕入れたんだ…?)行く先は露天風呂へ決定した。
廊下を通る度にすれ違う人々が足早に消えていき、
営業妨害に近いのではないかと思いもしたが今更な話だ。
露天風呂は宿の一番奥にあった。


「頭!!」
「何だよ」
「ここ、混浴だって…!」
「はぁ?」
は知らないんじゃないか?」
「いや、そりゃあねぇだろ…」


男女別に分かれている露天風呂の入り口には
『男』『女』と書かれた暖簾がかかっている。
その真上に、でかでかと『混浴』そう記されているのだ。
これに気づかない馬鹿は早々いないだろう。
残念だったなと笑うキラーに、真顔で何がだよ、
そう返したキッドは暖簾を潜り抜け、中へ入った。














…こいつら、俺が能力者だって事、忘れてねぇか?
我先に湯船へ飛び込む仲間達の姿を見て、
腰にタオルを巻きつけたキッドは一人考え込んでいた。
能力者故、こんなにも広い風呂に入った経験はなく、
どうして湯の色が白く濁っているのかと誰かに聞きたいくらいだ。
何だよこれ、腐ってんのかこの水。


相変わらず仮面を外さないキラーは石に寄りかかり、くつろいでいる。
多分、気持ちがいいのだと思うが、あの仮面の中は大丈夫なのか。
恐る恐る近づき、足の先を湯船につければ、
つけた先から力が抜けていくわけで、こいつはとんだ罰ゲームだと思ったほどだ。


それでも、誰一人何も言わないもので、腹を括った。
万に一つ、敵襲があったとしてもキラーがどうにかするだろう、
というかしなかったら殺す。
痺れるような熱さの後に、心地よい温かさが訪れ、
一気に胸まで浸かった。


「…」
「やっぱ、温泉は疲れが取れるな」
「…おう」
「あ!そう言えばお前―――――」
「…」


疲れが取れるどころか逆に増しそうだったが、耐える。
そう、これは我慢大会だ、きっと。何を得るのかは分からないが。
ようやくキラーが、キッドが能力者だった事実を思い出した辺りだ。
聞きなれた声が、聞こえた。


「な、何してんのあんた達!?」
「お。
「何?クルー総出で覗き!?どういう海賊団よ!?」


ばしゃばしゃと派手な水音をたてながら近づいてきたのはだ。
湯気でよく顔が見えなかったが、首から上は確実にだ。
こいつ、一体何をしてやがる。


「うるせぇんだよ、お前は。ちったぁ静かにしてろ馬鹿」
「覗きの分際で何よその言い方!」
「覗いてねぇよ!お前の方が覗きなんじゃねぇのか!?」
「見ねぇし!」
「そもそも、近づいて来るんじゃねぇよ馬鹿が!ここは混浴だろうが!」
「はぁ?何その嘘。あんた、そんなにあたしの裸が見たかったってわけ」
「見ねぇよ馬鹿!」


疲れているのに、この展開は流石に予想していなかったわけで、
汗だくになりながら言い返す。
こいつはもう本当に馬鹿だから、
何を仕出かすか分かったもんじゃねぇ。


「見ねぇって何よ、なら目ぇ閉じるなり何なりしたらどうよ」
「ふざけんな」
「…ふーん」


嫌な予感がした。
いや、が参上してからずっと嫌な予感はしていた。
その瞬間、が勢いよく立ち上がり、正直な所、死ぬほど驚いたわけだ。
大量の水飛沫と共に、疲れさえ流れ出た感触。


「って、バーカ!知ってるわよ混浴だって!」
「…」
「水着、着てるっつーの!何?期待しちゃった?」


頭からお湯を浴び、全身脱力状態のキッドの目前には、
ビキニを着たがおり、一気に力が抜けた。
こいつは、もう、本当に、心の底から、馬鹿だ。


「残念でしたー。ていうかキッド、能力者なのに肩まで浸かって大丈夫なの?」
「…」
「えっ、何?のぼせた?」


裸だろうがビキニだろうが、正直そんなもん大差ねぇじゃねぇかと思いながら、
近づいてきたの腕を掴み、思い切り引いた。
足場を崩したが顔面から湯船に突っ込む姿を見て、
お前は本当に信じられないほど馬鹿だと吐き捨てれば、
大量のお湯をかけられる事となった。
だから、お前はもう本当に最悪だ。





『能力者→風呂』キッド編。
例の主人公です。
だから、キッドがかわいそうなオチに!
しかし、あんな強面達が来たら、
さぞかし迷惑だろうなあ…。
2010/6/21

蝉丸/水珠