こちら最果てにて





もう諦めなと笑ったマルコは恐らく優しかったのだろう。
としても到底敵う道理がないと分かっていた。
それでもどうにか(そもそも彼女は白ひげを狙っていたのだし)
先へ進もうと幾度となしに敵わぬ戦いを挑む。


何故か、だとか何の為に、だとか。
もう理由は分からなくなっている。
新世界にいるのだから彼女の力はある程度のものだろうし、
最初遣り合った時の手応えでマルコも少なからず認めたのだ。
それでも敵わない。


周囲には白ひげ海賊団のクルー達がいい酒の肴だぜと戦いを見守っている。
こちらは一人。
随分可愛い子に好かれてるじゃねぇかと
少し離れた場所で白ひげが笑った。


それにしても、ここまで力の差があるのかと今更ながら思う。
致命傷を与える事さえ出来ないでいるのに、
勝てるわけがないと頭では分かっているつもりだ。


「なぁ、。お前はどうしたいんだよぃ」
「普通に話しかけて来ないで」
「俺に惚れてんのかよぃ」


こちらは息も絶え絶えだというのに、この男は減らず口を叩ける余裕を持つ。
勢いよく刀を振り回せば冗談だと笑う。
真実をこうも簡単に掴まれれば逆に恥ずかしさは増し、
それを悟られないように刃を向けるのだ。
そしてそれはマルコに知れている。
いや、このギャラリーにも知られているだろう。
そんな現状が何よりも腹が立つ。


少し困ったような顔をしたマルコが小首を傾げ、
一気に距離を縮めた。の利き腕を掴む。


「もう止しなよぃ」
「何が」
「お前は俺にゃ勝てねぇんだ、だから―――――」


心臓が破裂しそうになっているのは何も疲れだけのせいではないだろう。
掴まれた腕はちっとも動かないし、顔を上げる事も出来ない。
ギャラリーの声が一際大きくなっているが、それも余り聞こえなくなっている。


「諦めなよぃ」


そう耳側で囁いた瞬間、マルコがぐっと抱き締めるものだから
思わず刀さえ落とした。同時に襲い掛かる声、声、声、声。
我に返りマルコを離そうと腕を突っ張っても同じだ。
片腕でを悠々と抱き締めたマルコは、空いた手を堂々と掲げる。


今すぐに海へ身投げの一つでもしたい気分だ。
そうすれば、この場から逃げ出す事が出来る。
そしてマルコも追って来れないのに。


生まれ育った村から一旗あげてやると意気込み、
こんな最果てまで来てしまった。
その中で一人一人、仲間が消えて行き、
当の自分はマルコに視線を奪われ溺れている。


大海原に出て思った事はまず一つ、失うものが多すぎるという事で、
それなのに今こうしてマルコと出会えた事が嬉しくて堪らない、何て、矛盾な。


「離してよ…」
「照れてんのかよぃ」
「何で!あたしが!」
「顔が赤ぇよぃ」


何も言えなくなるような言い方をあえてするマルコに勝てるわけがない。
顔を合わせてからこれまでずっと堕ちていた事実、
それを認めろと言われているようで歯痒くなったがどうにもならない。
もうこれはお手上げだ。
どんな顔をしてマルコを見ればいいのかが分からずに
只、足元ばかりを見つめていた。





Desireさま提出作品
2010/1/20

蝉丸/水珠