エゴイズムに他ならないな





ちょっと匿ってくれと言い、
が転がり込んで来たのが丁度三日前の出来事だ。
何やらうんざりとした様子の彼女は、
何事だというベンの言葉に返答もせず、
ずかずかと船内に入り込み寝室へ向かった。


慇懃無礼にもほどがあると小言を言われても厭わず、
付いて回るベンに視線さえ向けない。
そんな様子を見ながらシャンクスは笑い、
疲れてるんだろう、休ませてやれと言うものだから、
あんたは甘すぎるんだと怒られるわけだ。


丸一日眠りこけたは突如目覚め、腹が減ったとキッチンへ向かう。
そこで又してもベンに捕まり、
今度こそは理由を説明しなければならなくなった。


「…て、わけよ」
「又か」
「ねぇ、あたし何か悪い事した?」
「してんじゃねぇのか?」
「シャンクスには聞いてないんですけど」


幼い頃に見た、古い絵本の風景を忘れる事が出来なかっただけだ。
世界中を旅する少年の話。
幼い心を鷲づかみにし、大きくなったら絶対に世界中を旅すると決めた。
色んな場所へ向かい、目にした事のない風景をフィルムに収める。
そんな生活を謳歌する予定だったのに、何をどこでどう間違った。


「七武海入りをさぁ、断ったらこの有様よ」
「だから俺は仲間になれって」
「あたし、別に海賊じゃないからね?」
「どっちでもいいじゃねぇか、今更」


元々、一人で行動をする事が好きなもので、
一人で行動する為に必要(だと思われる)な知識や力をつけた。
恐らくそれが影響したのだ。
賊に襲われない為、護身術を習い、
思いのほかその道が肌に合っていたのだろう。
見る見るうちに力をつけたは、
師匠から免許皆伝のお墨付きを頂き今に至る。


色んな海賊や海軍と遭遇したが、
本人のスタンスは最初から変わらないもので、
何故自分の通り名が世間を駆け巡っているのかも分からないわけだ。


「今回はさぁ、本当しつこくて!あいつら数打ちゃあたるって思ってるのよ」
「要はただ飯を食いに来たんだろう、お前」
「いいじゃない。シャンクスだって、言ってたし」
「あぁ。いつでも来いって俺ァ言ってただろ」


にこにこと上機嫌でメシを喰らうを見ている、
シャンクスにしたってそうだ。
一番最初に顔を合わせた際、
何よりも先に手合わせを挑んできたこの男も相当に厄介だった。
そんなつもりはないと、何度言っても聞かず、
結局はシャンクスが納得するまで手合わせは続けられた。


どうやら自身の価値が非常に欲目で触れ回られていると知った時には既に遅く、
海賊でもないのに海軍に追われるというわけの分からない状態に陥っていた。
奴らは好き勝手に罪状を作りやがるんだと諭され
(あれはベンに、だっただろうか)
只の誤解ではなかったのだと知ったは、これも又運命だと受け入れる。
だってみんな、仕様がない事だって言うじゃない。


「あーごちそうさまでした」
「もう行くのか?ゆっくりして行けよ、
「ここにいたら、迷惑がかかるわよー」
「そんなモン、気にするな」
「そんなモンを気にするわけがないだろ、こいつが」
「あんた、本当に優しくない男よね…」


ベンの小言を受けながら船を後にする。
こうやって顔を合わせ、
普通に会話が出来る相手はこのシャンクス達と、あの男くらいだ。














ふ、と気配を感じ、その刹那大きな衝撃が向かって来た。
動物達は一斉に逃げ出し、呆気なく一人になる瞬間だ。


「ちょっと!何なのよ!」
「フン…腑抜けてるんじゃないかと思ってな」
「余計なお世話なんですけど」


全て神の、運命の導きだと言う男の登場だ。
珍しいと思う気持ち半分、海軍からの依頼なのかと疑う気持ち半分―――――
ミホークは不機嫌そうな面構えのまま近づいて来る。


「お前の懸賞額が又、上がったぞ」
「えぇ?ワケの分からない奴らが襲ってくるはずよ!」
「俺を撮るな」
「ねぇ、ミホーク」
「何だ」
「あんたどうして七武海に入ったの」
「お前に教える道理はない」
「会話が成立しない!」


この男がわざわざ会いに来る相手がそういない事をは知らない。
この世界の大半を占める世情を知らずに生きているからだ。
世の中は随分広いものだと思い、
その広さを把握したいと息巻く女に対し、興味以外の感情で近づきはしない。
そんな気持ちは決して知らせないが。


「酒を持って来た」
「えぇ!?何あんた、あたしの事、殺す気?」
「お前には、飲ませぬ」
「えっ、何それ。自慢しに来たって事!?」
「俺が嗜むのを見ていろ」
「嫌だけど!」


こんな女を捕らえろと言う方がよっぽど道理に反している。
顔を合わせる度にそう思い、その都度、気が殺げるわけだ。
何の目論見もなく世界を旅するの、
ほんの僅かな時間を頂戴し酒を飲む。
が、シャンクス達と会った話を始めた。




久々にミホークとか絡ませたというか、
打ったよね。キーボードで。
愛とか恋とかじゃなくて、友達話。
ベンがお母さんのようだよ…。
2010/6/25

蝉丸/水珠