鏡にうつったその狂気





護衛の仕事は嫌いだと、
あれほど口を酸っぱくして言っていたにも関わらず、
どうにも上の人々は部下のいう事を聞かないものだから、
だからスモーカーの機嫌は最低の一つ上くらいのレベルに落ち込んでいる。
煌びやかな建物も、優雅な雰囲気も全てが不愉快極まりない。
元の職務を他に受け渡してまで、何故自分がこんな所にいるのか。
未だに納得出来ないし、この護衛が終わっても納得は出来ないのだろう。


「ほら、やっぱり来たじゃない」
「…」
「ねぇ、スモーカー。早くこっちに来て、あたしの相手をしてよ」


前回の護衛時には添い寝を命じられ(俺はガキの使いじゃねぇんだぜ)
当然ながら断れば、力ずくででも添い寝をさせられるところだった。
お前、そんなに強いんなら護衛なんざ要らねェだろうが。
呆れたついでにそう言えば、そういう問題ではないのだと憤る。
厄介な女だ。だから、上は子守を誰かに任せたがる。


機嫌を損ねれば大きな力が海軍はもとより、
世界政府から失われる羽目になるし、
頭の中身はガキのままなだけ、扱いが難しい。


「おい」
「何よ」
「俺ァ、遊びに来たわけじゃねェんだ」
「そうなの?」
「…!」
「あたしは遊び以外はした事ないの」


腕を掴み、無理矢理に引っ張るの姿を見下ろしている。
勝手に心を開くのは構わないが、受け止めるだなんて勘違いもいいところだ。
が眠りながら昔話を口ずさんでも、
目の端から涙が零れていたとしても、
ずっとスモーカーの手を握っていたとしても。
こんな世界も、自身の力も、
何もかも全てを憎んでいたとしても何も変わらない。


このスモーカーのように派兵される海軍の人間により、
体のいい軟禁状態を続けられている事実にも気づいている。
心の奥の方、情の部分が可哀想な女だと思っていたとしても
何も変わらないはずだ。そんなものは、きっと。


「お前、又騒動を起こしたらしいじゃねェか」
「どの話?」
「…」
「だって、あんた達が頼むんじゃない。自分達は手を汚したくないから、あたしにやってくれって」


だからあたしが殺したんでしょうと、
こちらを見ずに言うの心は歪んでいる。
これまでも、これからもその歪みは消えない。勢いは増すだろう。


幼い頃、空を流れる雲を見つめていれば両親が殺され、
それからの生活は一遍したらしい。
事実に基づく話なのかどうかは分からない。


今はない、小さいが栄えた国の話だ。
王族に流れる血には特殊な力が隠されており、
その力を恐れた世界政府は秘密裏に抹殺を命じた。
これは事実に基づく。海軍内の極秘資料に記載があったものだ。
残された幼い娘は逃げ出さないよう片足を奪われ、こうして生き永らえている。
都合のいい存在になる為だけに生かされている。


「ねぇ、スモーカー。あたしを忘れないでいてくれる?」
「何?」
「みんなが忘れた、あたしという存在を、あんたは忘れないで」
「何を、言ってやがる」


そんなに詰まらねェ事を言うんじゃねェよと吐き出せば、
おもちゃ箱を引っくり返したような部屋に到着。
眩暈がしそうだが耐える。
見慣れたはずのこの部屋に違和感を感じ、ふと視線を上げれば、
右の壁一面に血塗れの男女が赤ん坊を抱き締める絵がかかっており、
尚更気が滅入った。


きっと何れ、そう遠くない日には姿を消すだろう。
一つ二つ、新しいピースを手に入れている彼女はじきに全てを知る。
忘れないでと頼むのは俺の方じゃねェのかとも思ったが、
柄にもないので言わない選択をした。




どんな主人公なんだという話なんですが、
こう…十代後半くらいでどうだろうか。
年齢差激しいなあ。あんまり書かないタイプだった為、
何て言うか…書きにくかったというか…。
後、私は海軍とか世界政府を悪く書きすぎだよね。
2010/7/21

蝉丸/水珠