きみの痛みに歪む顔が愛おしいと思い込んでいた





自分に近い女を愛する事は罪に値する。
何に対しての罪なのかといえば、それは自身だ。
自身に対しての罪。


元より、安定しない暮らしを望む人種なのだ。
だから欲求のみを消化し、目的はたった一つに限定する。


奔放に生きるという事は、制限がなくなるという事だ。
制限がなくなれば何もかもが自由になると思っていたのも若い頃だけで、
歳を取り経験を積めば、その代わりに失うものも相当数あるのだと知った。
それでももう戻れず、一度味わった自由は手放せない。酷く甘いからだ。
だから、制限のある生活をしている人々が
望むものに手を伸ばすような真似はしなかった。


「…お頭は?」
「帰ったんじゃねェかい」
「あたしを置いて帰るわけがないでしょう」
「けど、いねェじゃねぇか」


自粛していただけだと知ったのは、
似たような生き方をしている癖に
全てに手を伸ばした男を目の当たりにしたからだ。
そんなにも我侭で赦されるのかと思った。酷く驚いた。
赦す女も女だと思ったが、それが、赦す行為自体が愛なのだと知らされ、
正直な所、単に羨ましくなっただけだ。きっと只、それだけ。
まるでガキのようだが、動機なんてその程度だ。


どうやら詰まらない男を赦す女は存外多いらしく、
このも例に漏れずその一人だった。
外面ばかりは新世界一いいが、内面は腐りきった男を頭と呼び慕っている。
この男が原因で幾多の海賊達が海軍に捕まった。
仲間を売る最低の輩だと認識している。


だから、あの男はを置いて船を降りたのだ。
お前、あいつの事を気に入っているだろう。
あいつをやるから俺を逃がしな、マルコ。
下卑た口調でそう持ちかけた事をは知らない。
そうして、これから先もきっと知る事がない。
あの男がとっくに命を落とした事もだ。
全て伝えるつもりはない。


「…ちょっと、何よ」
「おい、手伝ってくれ」
「何」
「動くなよ、。掘り師が間違っちまう」
「ちょっ、何!?やめさせてよ、マルコ!!」


そう。そうして皆が全てを知っている。
何も知らないのはだけだ。
屈強な男達がの体を押さえ込み、
左の腰に入ったあの男のマークを焼き消した。
の悲鳴が木霊する。
暴れる事も出来ず、
只声を張り上げるだけのの顔を覗き込んだ。
痛みに歪んだその顔に悲しさを覚える。かわいそうに。


「少しの我慢だよぃ、
「…!!」
「痛みは短い方がいい。痕もそう残らねェ」
「―――――!!」
「そうしたら、お前は俺達の仲間になる」


だから、今日からはずっと一緒だと心の中で呟いた。
きっとには届いていない。
全てを知らないには。
エース辺りがうっかり口を滑らせてしまいそうだが、
その頃にはきっと諦めもついているだろう。
だからといって、これまで決して伝える事の出来なかった
我侭な愛を伝えられるとも思えず、痛みを分かち合うように指先を握った。




あああ更新しなきゃとか思って書いてたら、
何かこんなマルコ話(個人的には白ひげ海賊団話)
になってしまった何か痛くてごめん(感覚的に)
何やってんだマルコ・・・。
2010/7/26

蝉丸/水珠