ああ、愉快





青い太陽がぎらつくような日には、何もしないに限るわけだ。
適当に静かな場所を探し、サンドウィッチとビールで一休み。
何者にも冒されない自適な時間を楽しむ。


まあ、そんな時間をぶち壊してくれるのは同業者だったり、
海軍だったりするわけで、どいつもこいつも暇なのかとぼやいた
少ない荷物を手に走り出した。


まったくもって、自分以外の誰もが生真面目なのだ。
だから一度でもこちらに視線を送れば追わざるを得ない。
もう少し、余裕のある生活を送れよと諭したい心境だ。
人生に目的がある人々はこれだから厄介なのだと空中を滑りながら呟く。


青い太陽は、ここ暫く沈まないのだろうし、そうなれば闇に紛れる事さえ適わない。
数年に一度あるかないかの奇妙な自然現象を目にしたいが為、
この国へ足を伸ばしはしたものの、こいつはとんだ誤算だと笑った。
そもそもが、どこにも海賊のいない場所はないこの世界で、
平穏に暮らす事が可能なのか否か。


「あっ」
「あっ!?」
「悪ぃ!」
「ふざけ」


崖の上から思い切りをつけ飛び出したはいいものの、
着地点の確認なんてしておらず、そのまま海に飛び込むつもりだった。
自分で言うのも何だが、海には好かれている(ような気がしている)


「…!?」
「申し訳なーい」
「手前…か!?」
「トラファルガーじゃねェか。久しぶりだな、元気にしてたか?」
「何をしてやがる、この馬鹿が」


飛び降りた地点にハート海賊団の船が停泊していたわけで、
大きな音を立てながらそこに落下した。
同じルーキー同士仲良くしようぜだなんて言っても同じだ。
不機嫌そうに視線を寄越したローは、
下敷きになったペンギン達を気遣う事無く立ち上がった。
どうやら刀の手入れをしていたらしい。


「丁度いいからさ、このまんま船、出してくんねェかな」
「ふざけろ、手前の指図は受けねェ」
「将校が追いかけて来てんだよ、ほら、あれ」
「…」
「こんなトコで面倒を起こすわけにゃいかねェだろ、お前も」
「…ベポ!」


すぐに踵を返し、聡明な判断を下す。
例の白熊に駆け寄り、仲良くやろうぜと声をかければ、
馴れ馴れしい態度は止せと、ローが(不機嫌そうに)叫んだ。













海の中に沈み一時間ほど経過した辺りだ。
もう大丈夫だろうと呟いたローは部屋を出て行き、
他のメンバーとが残された。
やけにピリピリしてやがると
(元よりあの男がそんなにフレンドリーではないとしてもだ)呟けば、
キャスケット達がビクリと肩を振るわせた。
何かありやがる。


「なぁ、いつにも増して機嫌が悪くねェか。お前達の大将は」
「…あぁー…。いつも通りじゃねェか?なぁ」
「あ、ああ。いつも通りだな。キャプテンはあんなだし、なぁベポ」
「又、女の人とケンカしたら、いっつもああなんだよキャプテン」
「!」
「!!」
「そいつァ、面白ェな。痴話喧嘩か」


あいつにも人間臭ェ部分があるんだなと笑い、
棚からワインを取り出した辺りだ。
勢いよくドアが開き、怒り心頭といった表情のローが戻って来た。
あの表情から見ると部屋の前で会話を耳にしたという所か。
ペンギンとキャスケットが青ざめ項垂れた。


「俺ァお前と馴れ合うつもりはねェんだよ、
「いいじゃねェか、同じルーキー同士…!」


言い終わる前に斬りかかるローの腹は読めていた。
だからも手にしていたワインを盾に応戦する。
素晴らしい切り口から中身が零れ落ち、もったいないと飲み干す。
いいワインだ、これは。


「ちょっ、キャプテン!!船が壊れちまう!!」
「お前、意外と熱い男なんだな、トラファルガー」
「よく喋る男だな、手前は!!」
「ホラ、頭に血が昇っちまって、思考力も鈍ってやがる」
「何!?」
「俺ァ男じゃねェぜ」
「「「「何!?!?」」」


キッチンが半壊した辺りで静寂が訪れる。
の発言により。


背丈は俺と同じくらい、いや、面は確かに整っちゃいるが、
ヒゲも生えてねェし、そんな事より男じゃねェだと?
意味が分からねェ。皆、こいつの事は男だって認識してるんじゃねェのか?
海軍も、こいつの仲間も!


「そーんなに驚くなんてなァ。よっぽど俺ァ男に見えるんだろうな」
「ユースタス屋は知ってるのか…?」
「いや、頭も俺の事を男だって思ってるみてェなんだよな。けどよ、一々自分は男だ女だって宣言する奴ァいねェだろ?」
「そりゃ、そうだけど…」
「どいつもこいつも、案外節穴なんだよ。視覚ってのはアテになんねェよな」
(し、信用出来ねェ…!!)


ワインをすっかり空けてしまったは、
血の気も引いたローを目前に新しいボトルに手を伸ばす。
胸の辺りをじっと見つめていれば露骨だな、そう笑われた。




又してもついったで呟いていた、
『えっ、お前女だったの?』話です。
書いてる時点で男じゃないのかという疑問が
浮いては消え浮いては消え・・・。
しかし、男主人公夢ではありませんので悪しからず。
多分、続く。
2010/7/30

蝉丸/水珠