疑う弱さを否定しても








夜通し遊び、戯れ程度に触れ合ったとしても、
決して心、奪われる事はない。
何となく、ぼんやりとだがその事に気づいてはいた。


だからマルコが今まさに、こちらの手首を掴んでいたとしても、
只戸惑うだけで、至極気持ちのいい均衡を崩すなよとさえ思った。
あたし達はこれまで、最高のバランスを保って生きてきたじゃない。
どうして今更それを壊すような真似をするの。


「…何よ」
「いい加減にしろぃ、
「何?あんた、酔ってんの?」


掴んだ手首を決して離さないマルコは、どうやらしこたま酔っているらしく、
こんな状態ではこちらの声もろくに聞こえていないだろう。
俺はお前が。
その先は喧騒に掻き消された。気づいていない振りを続ける。
そんな言葉は、要らない。


「どんだけ飲んだのよ、あんた」
「話を聞けよぃ」
「酔いが醒めたらね」
「よく言うぜ」


酔いが醒めようが俺の話なんざ聞きやしねぇだろぃ。
捕まれた手首が燃えるように熱い。
まるでエースに捕まれているようだと錯覚する。


この狭い船内に、たった一人だ。女は、只一人。
そんな環境下、こんなシチュエーションを迎える事は多々あり、
いちいち真面目に受けてはいられない。馬鹿を見る。
馬鹿を見るのは一度で十分だ。


「あんた、酔ってんのよ。マルコ。」
「だったら、どうしたぃ」
「!」
「酔いもしねぇと、お前にゃ触る事も出来やしねぇ」


酔いが醒め、後悔するのはお前だと思っているが伝えない。
素面の時には言葉一つ受け止めず、
だからマルコは薄く酔いながら手を伸ばしたのか。


不器用な男だと思いながら、腕を伸ばし大きな身体を抱きしめた。
耳側でどうしたのよ、と優しく囁けば背中に回された腕が力を増し、
答えないマルコが胸元に顔を埋める。
果してどちらが抱いているのだろうと、詰まらない主導権を探していた。




午前中にミスドで書いた話。携帯で。
周り男ばっかだろうなあ、海賊団とかー。
なら、まあこんな状況多々あるだろうなあー。
ていうかマルコに甘えられてぇなあー。
というどうしようもない動機です。
2010/8/05

蝉丸/水珠