俺がいつまでもテメェに敵わねぇだなんて思ってたわけじゃねぇよな。
濁る視界は狭い。声のする方を向けば赤黒いぼんやりとした何かがうつり、
少しの間、気を失っていたのだと知った。
身体が嘘のように重く、身動き一つ取れない有様だ。
「声も出せやしねぇか」
「…」
「ざまぁねぇな、」
「…馬鹿ね…」
「何だと?」
あんた、声が震えてるじゃない。
悲しくて涙が零れた。あんたが、悲しくて。
この男が自分の背を追い続けている事を知っていた。
何故か酷く美化され、焦がれられていると知っていた。
性の対象としてだけではなく、生き様を見つめられていると知っていた。
確かに出会った頃はキッド等、駆け出しの駆け出しで、
正直なところ歯牙にもかけていなかった。
只、少しばかり威勢のいい男が頭角を現した、その程度の認識だ。
こちらが相手にせずとも、キッドは自らが幾度も挑みかかり、
その都度小手先であしらわれる。
そんな待遇は酷く不快だったらしく、
どれだけ手負わせようとも怯む事無く挑み続けた。
キッドの噂を耳にするようになった頃には、こちらも多少の傷を追うようになっていたが、
そんな事よりもこちらの気持ちの揺れ方が尋常ではなくなったわけだ。
いつ頃からか心の奥に住み着き、今度はこちらが目で追うようになっていた。
悪評名高い彼の海賊団は名と賞金額を上げたが、相も変わらずキッドは挑んで来た。
終わりがないのだと知った。
彼が自分に勝たなければ終わらない。
しかし、それは自身の終わりをも意味する。
薄々気づいていたが、決断出来ずにいた。
多少なりともこの世に未練はあったし、
いざ戦いの場となればそれなりに身体は反応するからだ。
「…ふざけた口を利くんじゃねェ」
「分かってる癖に」
「そんな口が利けなくなるようにしちまうぜ」
まだか。まだ駄目なのか。
まだお前はあたしを追うのか。
同じ位置にはつけないのか。
さっさと止めをさせばいいのだ。
お前が、今まで繰り返してきた雑な殺人と同様に、
口を利く隙さえ与えず命を奪えばいい。
そうして、ようやくあたしは救われる。
捕らわれた思いから解き放たれる。
この、報われない思いから。
「あたしはあんたを、いつまでも守れやしないわ」
「何だと…」
「早くあたしを解放してよ」
そうじゃなきゃ、幾らなんでも草臥れちまうわ。
最後の言葉は声に出さず、どうにか飲み込む。
だからキッドは何もせず只、立ち尽くし、
どうにか立ち上がろうとするを見下ろしている。
何て、手間のかかる―――――
「かかって来い」
「…」
「かかって来いよ、!!」
無理に笑い、大きく息を吐き出した。
肺が痛むが、心の痛みよりも幾らかはマシだ。
これだけ痛んでいるにも関わらず、
顔には傷一つ付いていない事に気づき、思わず笑った。
何の事はない、突如キッドフェスティバル開催(in脳内)
いや、何かあの露骨なヒール具合が可愛くて仕方ない。
正直な所、本誌の仕業だよね。
様々なキッドを書き散らかしたい所存です。
2010/8/07
蝉丸/水珠
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