重くのしかかる言葉







歳を重ねれば重ねるほど、ロジャーの夢を見る事が少なくなった。
以前はあれほど夢に出て来た癖に。
鏡に映る自身とは違い、夢の中のロジャーはちっとも歳を取らない。
まあ、夢の中の自身も現実とは違い、
まったく歳を取らないのだから当然の展開なのだろうか。


違和感を覚え始めたのと同時に、夢から目覚め難くなっていたが、
当然のように身体が目覚める。
目覚めと同時に涙を拭う行為にも慣れきってしまった。
このままではいられないとは、分かっていた。思っていた。


だから以前の仲間から遠く離れ、まったく違う生き方を選んでみたわけだ。
戦いのない日々は非常に退屈だったが、
折り合いをつけるには丁度いい機会だと思った。
恐らくのそんな気持ちに気づいていたレイリーは、
極稀に顔を見せる事はあれども、余り店に立ち寄らなかった。


彼は昔からずっとそうで、がロジャーを追いかけ、
彼の愛する女を目の当たりにし、苦渋の決断を下した時にも側にいて、
悲しみを吸い込んでくれた。
口には出さず、無言のままで。
戦い方を嗜めたのもレイリーで、
歪んだの生き方を、こちらが気づかないように修正した。


だから、ロジャーが姿を消した時にもまるで動じず、
の動向を気にかけてくれたわけだ。
お前はこれからどうなるんだろうな。
優しげな眼差しで、ロジャーが消えたとうろたえる
レイリーはそう言い、心配だと呟いた。


、いないのか?」
「…」
?」
「…」


静まり返った室内は冷え切っていた。
何者の温もり一つ感じられない閑散とした室内を見渡し、
持ち合わせた果実をテーブルに置く。


「…そうか」


行ってしまったか。呟く。


「なぁ、ロジャー」


あいつを連れて行かないでくれ。
一人、呟いた。














お前はまったく詰まらない女だと吐き捨てたドフラミンゴは、
不愉快そうに口元を歪めた。
元々詰まらねェのか、詰まらなくなっちまったのかは分からねェが、
兎も角お前は詰まらねェ女だぜ、
この俺が、晴れの舞台を用意してやったってのに。


「無駄口は結構よ」
「何だ?随分吹っ切れた顔をしてやがる」
「さっさと、ケリをつけましょう。ドフラミンゴ」
「…フフ」


やっぱりお前は詰まらねェ女だよと笑ったドフラミンゴは、
ゆっくりと立ち上がった。
サングラスをずらし、こちらをじっと見つめる。
この女が現役の時を知らない。だから、出方を伺う。


名の売れる海賊団の怖い所は、手練が揃っているという部分だ。
そうでなければ生き残れないし、名も売れない。
話には聞くが、命を懸け戦う彼女を目の当たりするのは
これが最初で、きっと最後になる。


「命を懸けるなんざ、今時流行らねぇぜ」
「そうかもね」
「懸ける価値があるのかよ、なぁ。わざわざお前が命を懸けるほどのものなのか?…死んだ男だぜ。とっくにそいつは死んじまってる」
「馬鹿ね、あんた」
「―――――何?」
「あたしも死んでるのよ」


とっくに。
が一歩を踏み出し、刀を抜いたところまでは楽に目視出来た。
覇気で飛ばし、の頬に赤い線が走る。
怯む事無く、又踏み出した。
確かに―――――
ゆっくりと片腕を上げながらを見ていた。


確かにこれまでよりも格段に動きは素早くなっている。
この俺も随分舐められてたもんだぜ。
の顔が目前に迫り、彼女の右腕の自由を奪った。
ふと気づく。何故、懐に飛び込んで来やがった―――――


「!」
「これであんたは、そこから動けない」
「こいつァいい…お前、正気か?」


刃はドフラミンゴではなく、の左腕を切り離した。
痛みに歪む一瞬の表情に見惚れていれば、確かに身体は動かない。
足元に転がった肘から下、
彼女の腕はしっかりとドフラミンゴの影を握っている。


「後、三十分も経てば潮が満ちて、ここは海に沈むわ」
「その出血だぜ、お前の方が持たねぇよ」
「この能力が解除されるまで、あたしは死なない」
「何?」
「『神の左手』あんたも聞いた事くらい、あるでしょう」
「…『神の左手』だと?こいつァいい!全世界に奇跡ってヤツを降らせた『神の左手』は、手前が持ってやがるのか!人々が縋る生神を殺した張本人が手前だとはな!」


何もかも全てを手に入れたく、この力を欲した。
あの老人は疑う事無くを招きいれ、今際の時に何と言ったか。
お前はもうとっくに、死んでいるようなものではないか。
そう、言った。


この左手は願いを叶える。
相手の身体に触れ、強く願えば願うほど願いは叶う。
だからあの老人は、不治の病を治し、人々の苦しみや悲しみを癒していた。
ロジャーを手に入れたい一心でその能力を欲したは、
結局のところ一度も能力を使う事無く今に至った。


老人の言葉を思い出すし、手に入れ気づいたが、
『神』と名の付くこの能力は善行にはありとあらゆる効力を発揮するが、
悪行には強い拒否反応を示す。
願いを叶えれば、こちらを殺しにかかるだろう。


足元に海水が溜まり始めた。
透明のはずの海水は、赤黒く濁っていた。


久々に能力を考えたらスゲエ時間がかかったわけで、
その割にはこう…だからどんな能力なのよという結果に!
ていうかさーもうオリジナルだよねここまできたらー。
名前だけ借りてんじゃねえよ馬鹿と思いました。
アダルト組、終盤戦です。


2010/8/10
pict by水珠