正しさなんて必要ない








母親という存在は存在しなかった。
しかし、父親と兄に囲まれある程度の幸せな幼少期を暮らしたと思う。
確かに、何故船に住んでいるのだろう、だとか
五人から存在した兄達との歳の差がありすぎるだろうだとか、
思うところは多々あったが、皆一様に愛情を注いでくれるのだから
問題はなかったわけだ。
十以上も年の離れた兄達はを我が子のように可愛がった。


そう。だからあの頃は髪も長く、ひらひらとした服を着、
絵に描いたような女の子として暮らしていた。
十歳になった頃、ようやく自分の乗っている船が海賊船だという事を知り、
兄だと思っていた相手がクルー達だったという事を知った。


只、その頃から海は荒れ始め、
船上で戦う頻度も増えた為、記憶としては恐怖が多い。
船底にて耳を塞ぎ騒動が静まる事だけを祈っていたあの頃。
それでも静寂が訪れれば温かい両手がを迎えに来てくれる。
何の疑いもなく、それを信じていた。


「おい、手前どこに行ってやがったんだ」
「頭」
「手前がいねェ間に、敵襲が三度だぜ」
「そいつァ、申し訳ねェ。どうだった?」
「この俺が手を下すほどでもねェ、余裕だよ余裕。当たり前だろうが」


それは、余りに突然の出来事だった。
深手を負った父を設備の整った病院へ連れて行く最中に敵襲があった。
父親は痛む身体を押し、を船底へ隠し戦いへ向かった。


大人しくしてるんだぞ、
すぐに迎えに来るから―――――


「トラファルガーに会って来たぜ」
「あァ!?」
「元気にしてたよ」


背後でキッドが何か喚いているが、振り返らずそのままキッチンへ向かう。
ハートの海賊団では酒しか喰らっていない為、非常に腹が減っている。
話を聞いて少しだけ動揺したが、
キッドがそう簡単にくたばるわけもないし、他のクルー達だってそうだ。
血まみれの状態で両手を広げ迎えに来るわけもない。


それにしても、あの様子では微塵も
こちらの性別を疑ってはいないのだろうと思い、
キッドの眼が心配になったが、
あの頃いた兄達と面影が少しだけでも似ているもので、不問に付す。
キッチンのドアを開け、中に入った。




『ああ、愉快』の続きです。
・・・中途半端ですけど。
そして性懲りもなく又、続きますけど。
2010/8/10

蝉丸/水珠