それだけが全てでした








遠くで騒ぐ馬鹿共を甲板から見物していた。
島に降りないのかとゾロが聞いてきたが、冗談じゃないと一蹴したわけで、
一定の距離を保つ彼はそれ以上の詮索をしなかったわけだ。


我らが船長は誰よりも先に島へ降り、皆ぞろぞろとそれに続いた。
今のところ、この船に残っているのはだけだ。
船を守っているわけではないが、
島に降りるくらいなら一晩をここで過ごした方がマシだ。


「…あれ?ちゃん」
「サンジ」
「ずっとここにいたの?」
「船を守ってんのよ」


煙草を燻らすは笑顔こそ浮かべていたが、
一人でいたいと思ったはずだ。
買い出した品が腐る前に冷蔵庫へ直しに来たサンジは、
甲板に一人佇むを見かけた。
思わず声をかければこの態度で、
相変わらず掴みどころのない女だと思ったが、
二人きりになる機会もそうない。
だから、あえて図々しく出てみた。
冷蔵庫から失敬したビールをに投げ、同じ景色を見つめる。


偶然に立ち寄ったこの島は、『バカンス島』と呼ばれる稀有な島だ。
争いは禁止、血の気の多い海賊たちがどれだけ集っても
争いが起こらない理由は只一つ、この島を治めている一団が
名の売れた海賊達だったから。


彼らはここを海賊達が骨を休める『バカンス島』に作り上げた。
彼ら曰く、『こんな島があった方が楽しいじゃないか』と
極めて楽観的な意見から派生した興行だったらしい。
まあ、ものの見事に成功し、
ここは海賊達の骨休めには持って来いの場所となった。


どこからかその噂を耳にしたルフィが、どうしてもここに立ち寄りたいと言い、
一瞬で嫌な予感が全身を駆け巡ったが断る理由は口に出せない。
どうしたものかと考えていれば、
遠目にも見慣れた海賊船が見え始め、最悪だと一人頭を抱えた。


「スゲエな、ここ」
「らしいわね」
「色んな海賊が犇めき合ってるってのに、諍いが一つも起きないんだぜ」
「強いもの、あいつらは」
「あいつら?」
「聞き流して」


酒を飲んだ女の言う事は。


「皆、楽しんでるぜ。おいでよ、ちゃん」
「…いいわ、遠慮しとく」
「いいから」
「ちょっ」
「行こう」


強めに腕を引かれ、思わずよろける。
数百メートル先の騒動が視界の隅に過ぎったが、サンジは腕を離さない。
見慣れた海賊旗、見慣れた船。あの頃の思い出。
全てが一斉に思い出され、思わず足が竦むが言い訳が出てこない。


まっすぐにルフィ達の下へ向かい、
そこから片時も離れなければいいかとも思ったが、
その時までに上手い言い訳を考えていられればの話だ。














女は腐るほどいる。
目に入る女から、手に入る女まで引く手数多だ。
だけれどまずは酒を喰らい、
誰にも負けない強い自分のアピールを繰り返し、
そうして寄ってくる腰の軽い女にまず視線を寄越す。
胸の大きい女、唇の嫌らしい女。腰の肉付きがいい女。
色んな女が寄ってきては消えていく。まるで記憶に残らない女達だ。
理由は分からない。
只、こんな飲み方は決して嫌いではないし、
楽しいのだから問題はないはずだ。


この島には色んな海賊達が集う。
最初こそ、争わないだなんて到底無理な話だぜと思っていたが、
どうにも土壌がいいのか何かしらの成分が影響しているのかは分からない。
それでもアドレナリンが一切出ないのだ。外的な要因が影響しているのだろう。


だからつい先刻もあのトラファルガーの野郎と
(殴りあいもなしに)酒を飲んだわけだ。奇跡としか言いようがない。
あいつはあいつで女を侍らせ、好きなようにやっているようで、
誰も彼もが幸せになれる島だなと思えた。


そういえば、麦わらのあいつもいたようだったが、
我先に食い物の方へ突進して行ったもので、言葉一つ交わしていない。
こんな状態だし、この島だ。
後で口でも利きに行ってやろうかと思っていた矢先、見かけてしまった。


「…おい!!」
「…」
「おい、!!」
!?」


歩み一つ止めない女の肩を掴み、グラスの中身が零れたが関係ない。
背後でキラーが本当かキッド、等と叫んでいるがそれも気にならない。
こんな、まさかこんな展開まで用意してやがるのか、この島は。


「ちょっと、人が見てるでしょ」
「お前がシカトするからだろ」
「勘弁してよ…!!」


の眼差し、その先には麦わらのクルー達がいて、
こちらを興味深そうに見ている。
おいおい、お前、マジかよ。
色々と言いたい事は山ほどあるが、
辺りを異様に気にしたが、今度はキッドの腕を掴み、
暗がりの方へズカズカと歩いて行くものだから、
そっちの方が妙な誤解をされるんじゃねェのかと思いながらされるがままとなる。


こんな生き方をしているだなんて、もし彼女に知れたら、
どう思われるのだろうと思っていたが、
落ちぶれたものだと嘲笑われるのだろうか。
確かに、この女が消えた後から無理をしていたような気がするが
(口が裂けても言えやしねェが)仮にコイツがそんな事でも言おうならばだ。
お前が戻って来たらいいだけの話じゃねェかと言うだけなのに。


きっと彼女はそんな事は言わないし、
それなのに今、自分が一番して欲しい事をしてくれる。
あんな喧騒から連れ出し、二人きりになって、
それがどんな理由だったとしても。
このまま腕を掴んだまま、ずっとこうしてくれてりゃあいいのに。
そんな事は出来やしねェって分かっちゃいるけど。
けど俺ァ、今までの俺を、これからの俺を見ていて欲しくて、お前に。


立ち止まった彼女が振り返り、
もうこんな真似はよしてくれと吐き出した。
おいおい勘弁してくれよ


追い討ちをかけるような彼女の言葉は耳に届かず、
只、恋しいばかりの心はこの腕を動かす。




すっっっっごい久々に
サンジとか書いたよ!!!!!
もう、本当どんだけ振りだよと言わんばかりに!
まあ、キッドの話なんですけどね(キッド・フェスティバルです)

2010/8/25

蝉丸/水珠