かわいそうなおとこ(ver2)

「何だよ」
「別に、何もないわよ」
「あ?」
「どうしてそんなに突っかかってくるのよ」
「うるせェんだよ」


そうして飛び散る火花、漂う悪意と暴力の応酬。
阿含のリーチ内にさえ入らなければどうにか逃げ出す事が出来る。
正直な話、この男に殴られるのはもう御免なのだ。
阿含が他の女と遊ぶ事も浮気を繰り返そうとも
何一つ言わなかったは何故又こんな大惨事が
生じているのかが分からないでいる。
今の今まで一度としてあんたに意見なんてした事ないじゃない。
喜怒哀楽は絶対に見せない。つけ込まれるから。
あの長い腕が自分を捕まえないように視線は逸らせない。
一度でも捕まれば全てが終わってしまうような予感さえ。


「カスが・・・何逃げ回ってんだ、コラ」
「何なの」
「あ?」
「あんた、何なのよ」


今日の阿含は非常にテンションが高いらしい。
懇願する事も出来るだろう、あてにはならないが。
流石に今日に限っては全てを終わらせたく
必死に思考を駆け巡らせる。
一体何をしたらこの男の執着を終わらせるのか。
弱い生き物を嬲る性根はどうにもならない。
時折見せる優しい表情は結局嘘だったのだ。


「あたし、あんたの事嫌いなの」
「へェ」
「嫌いになったの」


阿含が割ったガラスの破片が散らばっている。


「だったらどーしたよ」
「・・・」
「おめーの好きとか嫌いとかってのはよ、知らねーし」
「・・・」
「俺だって好きじゃねーし」
「・・・」
「興味もねェ」


阿含は嘘を吐く。大体発される言葉の大半が嘘だ。
自分の気持ちが恐らく自分でも理解っていないのだろう。
好き勝手に出来るから疑問さえ持たない。


「もうあたしに関わらないで」
「うるせェ」
「出て行ってよ阿含」
「聞こえねェ」


伸ばされる手が何かを求めているようで裏腹な暴力と
闇の深い眼差しが交差する。
逃げ出そうと身を引いても追い詰められたの背は
易々と壁に叩きつけられた。恐ろしい。


「・・・殺せばいい」
「うるせェ」


俺に指図すんじゃねェよ。
阿含の声ばかりが響き視線を合わせる事も出来ない
は唇を噛み締める。
俺に指図すんじゃねェよ。
阿含の声がもう一度聞こえた。

拍手御礼夢第七弾。まさかの一人称。
阿含ですが夢ではない模様です(御礼と名がついているのに!)
彼は、何だろうか。どうしようもない風に。
嘘吐きだと思うよ。
名前変換を付け加えてます。