伊武の連れて来た女は槌矢の知り合いだった。
高校時代の同級生、それ以来顔を合わせた事などなかったが
思い出だけは腐るほどある関係だ。
華のない高校サッカー時。
はマネージャーを、槌矢は無論選手を。
「おい!!!!」
うろちょろしてるんじゃねぇ。
伊武の手の平がの髪を弄り
最初からどういう関係なのか、その類の説明等皆無だった。
無難な線で恋人なのか、皆そんな思いを巡らせる。
「帰りたいんだけど・・・・・・・ねぇ」
「ああ!?」
「だってここ暑いんだもん!!!死ぬ!!」
「大体どうやって帰る気だ?お前」
「ひ、飛行機とかで・・・・・」
「バァカが、パスポートもなしでか?」
「返してよ!!」
彼女はどういった事が原因でここに連れて来られたのだろう。
まったく場違いには違いない。
バッチリ施された化粧とある種余所行き染みた服装。
「郡司からも何とか言ってよ!!」
「こっちに振らないでもらえませんかね」
「冷たい!!」
何の関係なのかが分からないのだから下手に関係するわけにもいかない。
伊武は普通の表情(大概不機嫌そうである)過去の事等思い出すつもりなどないはずだ。
伊武の周りを徘徊しているにしろ恐らくはそのつもりなのだろうと。
今はサッカーを、これから先もずっとサッカーを。
そういえばあの頃もサッカーしかなかった。
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現地の子供に連れられ酷く退廃的な街中に飛び出してしまったは
流石に無用心だったと思い伊武の怒りを予想する。
色の黒いこの子供は睫毛が嫌に濃く長い、少しだけ羨ましくもある。
「何?何?」
「・・・・・!!!」
「いや分かんないって!!」
子供がを連れて来たのは山岳に立ち入る寸前の大きな壁。
現地の言葉で何かが書き殴られている。
子供はそれを指差ししきりに何かを喋っているのだが
無論には分からない。
辺りには黒いベールを被った老人が一人座っているだけだ。
ここは一体何なのだろう。
「カンベンしてよ〜〜〜」
突然連れて来られればまったく観光には向かないお国柄。
伊武には観光に連れて行ってやる、そう言われたのに。
信じた時点で負けだったような気もしないではない。
「・・・・・・・・・!!」
「・・・・」
突然強い歪みのある英語がの耳を突いた。
あの老人が口を開いていた。
余りにも訛りが強過ぎる為に(しかも自身大して英語が分かるわけでもない)
理解が出来ない―少しだけ分かった。
「あたしの、事?」
老人は眼差しだけをに向ける。
そうしてが口を開いた瞬間に視線を下げ又無言に。
子供はそのやり取りを見て理解したのか黙り込む。
そうして再度の手を引き雑踏の中へと舞い戻った。
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血の繋がりのない兄弟である事は秘密にしているわけではないが公言してもおらず、
だから金の余りないこの旅行(旅行じゃねーよby伊武)
無論の部屋は伊武との相部屋だ。
互いに利害は一致している、伊武は昔の約束を果たしただけだ。
「伊武さんあの娘と相部屋だよ・・・・」
「公私混合やな、」
「ありえねー・・・」
「俺は普通に羨ましい」
ねえ槌矢君はどうなん?
突然話を振られた槌矢は相変わらずの表情で
どーですかねぇ、会話には加わらず。
曖昧な状況ではあるが自分に口を出す権限はない。
「寺元、」
ちょっと付き合え。
ボールを蹴った槌矢はそう言い
寺元は(いつもの事なので)黙ったままそれに続いた。
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「聞いてよ、」
「あ〜〜うるせぇな」
「今日子供がさ、」
「あ?」
「何か変な壁をね・・・」
この地に伝わる壁の伝説を思い出したが口には出さなかった。
{女は罪である}
こいつが女って面かよ。
恐らくはまるで分かっていないのだろう伊武は一人喋り続ける。
を眺めたまま微かに笑う。
「それより、」
お前まだアイツと話してねぇだろ、
約束は果たしたというのにこれでは話が違う。
「いや、ほら、それはね、」
「とっとと話して終わらせちまえよ」
「おっ、終わらないわよ!!!」
「めんどくせーな、俺が言うか」
「やめてよね!!!」
高校時代に槌矢と付き合っていたらしい(この話を聞いた時伊武は失笑した)
そうして何が原因で別れたかは知らないが未だ好きらしいと。
まったく気の長い話だ。
その別れ際三年後に会いに行くから云々という約束をしたらしいが
槌矢は覚えているのだろうか。
「だって覚えてなかったらさ・・・・」
「知らねーよ」
「何!?その言い方!!!」
丁度バレンタインの日に別れた。
よく考えなくとも最悪の別れ方だ。
その話をこの兄にすれば思い切り笑われた。
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「へばってんじゃねー!!」
「う、うぬぬぬぬ・・・・!!」
槌矢の過酷な自主トレに無理矢理付き合わされている。
寺元にしてみればいい迷惑だ。
邪念を振り払う為に没頭する槌矢と子供から見ても罪に姿を変える。
両天秤出来るほど器用ではない男が存在す。
スゲエ昔の話を発見、発掘?
どの道伊武が義兄で、というコンセプト。
昔から全然変わってねえ。