待って。

一歩又一歩と進めば緩い地盤が一気に砕けたような気がしては怯える。
先を行く喜助の背ばかりが遠ざかり叫んだ、お願い待って。
喜助は振り返らす止まらず片腕だけを悠々と上げる。
お願い待って。
さん、あの声で名を呼ばれる瞬間の慟哭。
生きる術を放棄した間抜けさに似ている。
お願い待って。


「その辺りは余り丈夫じゃあない、」
「何?」
「お気をつけて、足を取られやしませんように」


あたしが手でも差し伸べてみましょうか、
喜助の声ばかりが近く聞こえとうに見えなくなった背は今どこにあるのだろう。
今日も今日で泣きながら目覚めてしまった
廊下を駆け回る恋次の騒がしさにより救われる。
襖越しに見える恋次の姿はまるで止め処なく今は何だろう、
誰を追い掛け回しているのだろう。


「おい!!お前起きてんのかよ!!」
「起きてる」
「寝すぎだから!!」


いやマジで、襖越しの影はそう言い又姿を消す。
どいつもこいつも。


お願い待って。

兎も角恋次を絡ませるという。