滅多に閉じられる事のないドフラミンゴの口は
昨日からすっかり閉じられたままでありもそれに倣い沈黙を保った。
必死なのかも知れない。彼なりに必至なのかも知れない。
ドフラミンゴは愛していると言ってくれた。
もうそれだけで十分だと思えた。
今夜は朱い月が出るぜ。
ドフラミンゴの声が聞こえそのままガラスに手を伸ばす。
そうしてそんな月を目にする前にここを立ち去ろうと心に決めた。
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「くそったれが!!!」
鉄の棒を蹴りつけながらドフラミンゴがそう叫び
手錠で繋がれた腕を激しく揺さぶる。
少しだけ意識が途切れているところをみれば
あの時飲んだワインにでも薬が混ぜられていたのだろう。
の姿はない、どこにも行かないようにああやって
ずっと手を握り抱き締めていたというのに。
もう少し、あとちょっとでいいじゃねェかなぁ―
何だかんだと言い繋ぎながらを抱き締めていた。
青臭い子供のように世間知らずの間抜けのようにを抱き締めていた。
「は ず れ ろ よ !!」
金属音が室内に木霊する。
ドキドキと胸が高鳴っていた、それが妙に嬉しかったというのに。
「!!」
群青に似た空は濃度を増し
それが完璧に闇に包まれてしまえば
の姿は自ずとなくなってしまうだろう。
早くこの手錠を外し彼女を捕まえに行かなければならないのに。
ドフラミンゴの足、レザーシューズの爪先が酷く痛む。
の香りもなくなってしまう。
開け放たれた窓から全ては流れてしまう。
「ショウ!!おい!!」
何故ここまで焦っているのだろう。
ドフラミンゴの手首に血が滲んだ。
それでも手錠は頑丈に壊れはしないし最早痛みも感じない。
消える事を恐れていた、が消えてしまう事を何よりも恐れていた。
彼女はどうも海賊らしい、ならば仲間とやらが存在するはずだ。
そいつらを殺しちまえばお前は俺のだよな。
酒に酔った勢いでそう呟いてしまった。
の顔色が一瞬変わった。
それもドフラミンゴは見逃さなかった。
「待てよ!!」
待ちやがれ馬鹿女。
頭に血が上っていた自身に気づきドフラミンゴは息を吐く。
そうして胸元からデリンジャーを取り出すと躊躇する事なく弾丸を放った。
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ドフラミンゴのような男が真実を口にする事はないだろうと思っていた。
きっと少しでも離れてしまえば彼は他に手頃な女でも見繕い
自分の事等簡単に忘れてしまうはずなのだ。
そうすればは本格的に一人になりそうして。
海賊だという事実を告げた、七武海の彼は鼻で笑った。
ふと思う。どうせ自分は一人になれはしないし慣れもしない。
一人になれないのだ仲間を失う事が怖いからドフラミンゴの元を去った。
ドフラミンゴは愛していると言ってくれた。
こんな幸せを求めてはならないのかも知れない―
不釣合いなのかも知れない。
空を見上げる、まだ月は出ていない。
恩人の言葉が脳裏を駆け巡る。
赤い髪をしたあの男はの頭を撫でこう笑った。
お前は何でもかんでも余計なモンばっか背負い込んじまってるな。
男の言う事をイマイチ理解出来なかったは曖昧に笑った。
お前にゃまだ理解出来ねェかも知んねェけどな、
幸せになってもいいんだぜお前は。
何故だかふいに泣きたくなった事を覚えている。
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首を鳴らし待ち疲れたような男が朱い月をバックに佇んでいる。
細く長い腕は大きく広げられ立ち尽くしたはそんな光景を見つめた。
もう少しで海に辿り着けるというのにあの男は何故ここにいるのだろう。
「血が出てる」
「気にしてんじゃねェよ」
「本当に朱いわね」
「あぁ」
何も考えず俺のトコに来な。
遠く近く波の音が聞こえる。
ドフラミンゴは自分を見ている、月が朱く笑った。
一生懸命なドフラミンゴとちょい出しのシャンクス・・・