SWEET BABYS

視線を上げ捕らえる。それだけだ。毎回同じ事を繰り返す。
蛭魔も分かっているのだろう、同じように視線を返した。
この暗く歪んだ空間、その瞬間だけは二人だけになる。
指先は触れない、この身体も。心が触れ合っているのかは分からない。
あれは目に見えないものだから。
勘違いでも構わないのだろう、錯覚は闇が増徴させてくれる。幾らでも。
だからここで交わすのだ。


爆音で流れるトランスだけが感覚を麻痺させ
蛭魔との距離を縮めているように思えた。
蛭魔は壁際にいる。
何故だか不思議とあの男の視線だけはどこにいても感じる事が出来、
振り返ればいる、そんな偶然は幾度重なったのだろう。
思わず飛び出そうと考えた回数と同じだとは思う。
しかしその都度思いとどまらせる。
あの視線だ。足が竦む。何故。


「何やってんだよ」
「阿含」
「最近、付き合い悪ぃよな」
「何?」


蛭魔が一度こちらを見た。笑ったのだろうか。


「あんたこそ最近滅多に顔見せないじゃない」
「都合ってもんがあるんだよ」
「へェ」
「つか、何見て―」


阿含が呟き視線を向けた瞬間だ。
何となく阿含に視線を向ければ酷く詰まらなさそうな顔を
引っさげていたものだから空気が変わった。
気まぐれなこの男の感情が揺さぶられた音だ。
腕が身を引く瞬間逸らす。舌打ちは音にかき消される。
バカが、そう象った阿含の唇を舌が舐めた。
身を引いた序の如く足が動き出し壁際、まだ彼はこちらを見ているだろうか。
蛭魔の側へ向かった。


壁際、闇に飲み込まれそうな場所にまだ彼はいるだろうか。
人混みに紛れ姿なんて確認出来ないのにそちらへ向かう
未だ掴めていない蛭魔の身体を捜した。

久々に蛭魔の素敵具合を。
スポーツマンシップに乗っ取って、
蛭魔はこんな所に顔を出しゃしないだろう・・・