フェロニッシモ

何かしらこの後用事があるのだろうはしきりに携帯を見ている。
相変わらず少しだけ待ち合わせ時間を過ぎてから顔を出したマルコに
邪険な眼差しを向けやはり視線は携帯に向いたままだ。
今年流行っているらしいカラータイツ、紫。銀色のブーティ。
髪を上げるだけで嫌に大人びて見えるなあと思った。


「あんた遅いのよ」
「悪ぃ悪ぃ」
「で、何」


今後のご予定は合コンなのかパーティなのか。
顔を覗き込めば凶器の如く尖った睫が威嚇した。


「どこ行くの」
「どこでもよくない?」
「まぁ、ね」
「兎に角あたしあんま時間ないのよ」
「行かせねぇよ」
「あんたさぁ」
「俺が夜に一人なんて、有り得ないだろう?」


ホストに間違えられるわよ。
スーツで身を固めたマルコに視線をうつしそう言えば笑う。
逃がさないようにまず相手の前に立つ。そうして壁に手をつく。


「あんたねぇ・・・」
「時間ないんだろ」
「この前あんたのトコのヤツが出禁になったクラブなんだけど」
「・・・あぁ」
「ま、あの後金積んだんでしょ。あんたの事だから」
「さぁ」


そんな事はどうでもいいから早く行こう。
まったく笑わない目の奥、それがを掴まえている。
どれだけ飲んでも決して酔わない、気分の変化は認めない。
相手に飲ませる技には長けている、ターゲットは逃がさない。
半年前からどうやらずっとターゲットとされているらしい。


「あたしに絡んでも得しないわよ」
「そういうのじゃないさ」
「損得以外であんたが動くわけないじゃない」
「愛ってのはそういうもんじゃあないだろ」
「あんたが口にしたらさぁ、余計胡散臭いわよね。愛なんて」


肩に腕を回したまま勢い良く引き寄せる。
少しだけよろけたがマルコに全身を預けた。
夜の繁華街、イルミネーションが煌くこんな街中では
恋人同士のように見えるだろう。
耳元で囁く言葉。まるで悪夢のようだ。悪夢だろう。
マルコは低く甘く囁く。


あの彼はやめときなよ
もうじき使えなくなるよ。
だからやめときなよ


濃い雄の匂いがした。

何か、もう卑怯だよね。全体的に。
(ここでは完全にそういう扱いのようです)