ロンリードッグブルース

仕事終わりに真っ直ぐ居酒屋へ直行。明日は土曜、要は花の金曜日。
何て言い方は余りにも古すぎるか。
いずれにしても死ぬ程飲み尽くすつもりで向かったわけで、
最初の面子は時間が経過する度に顔ぶれを変えて行った。
最終的にはまったく知らない人々と笑いながら飲んでいて、
まぁ、その中にいた案外いいんじゃあないの、程度の男と―


ほら、まぁ、終電もないし。
だなんていい訳は頭の中にさえ一瞬でしか浮かばない。
慣れてしまったのもあるだろうし、要は性欲の消化だから。
男だろうが女だろうがヤりたい時はある。
性別がどちらかだといって貞操を守らなければならない義務はないだろう。
最早彼氏なんて欲しいとも思わないのもそれと同じ。
今この瞬間が愉しければいいと思ってしまう、そう若くはないこの心。


そうして完全に若くない始発に揺られるこの身体だ。
朝日が歯痒いと思える。目を開ける事が億劫で堪らない。
それにしても酒を飲みすぎたらしく完全に残ってしまっているし、
若干ながら昨晩後半の記憶は定かでない。
あの男は格好よかったっけ?


「・・・おい」
「―えぇ?」


ちょっと勘弁してよ。
駅から下りて徒歩10分の場所にアパートはある。
一人暮らしも数年経過するのだし誰からも干渉されないはずだ。
まだ始発の時間帯だからか人通りは疎らであり
カラスばかりが目に付いた。そんな中これだ。


「ちょっと―あんた何やってんのよ」
「そりゃこっちの台詞だ」
「いや、だってあんた」


言いたい言葉は浮かぶのだが
上手い事言葉に出せないでいるは発言を止める。
言いたい言葉はこれ、
あんたの家ってこの辺りじゃあないでしょう。
それだけの事が何故言えない。
やはりアルコールは怖ろしい。


「流川クンは何をやってるの」
「・・・別に」
「別に、って、あんた」


一刻も早く部屋へ入りベッドに飛び込みたいというのに楓―
この図体のでかい男がドアの前に陣取っているものだからそうもいかない。
それにしても人の部屋の前で何をしゃがみ込んでいるのか。


「ちょっと今日は勘弁してよ」
「朝帰りとかしてんじゃねぇ」
「はぁ?人の事はほっときなさいよ」
「嫌だ」
「本当、何してんの・・・」


高校生に付きまとわれている。
身体は大きいけどもやはり顔も口調も全てが子供、
たまたま知り合いの弟、その知り合いだった。
(まぁ知り合いというか同じ部活の後輩らしいが)
どちらかといえば人懐こい、
社交的なその弟に対しこの流川は無愛想過ぎた。
確かにキレイな顔をした子だなぁと思いはしたもののまあそれだけ。
どれだけ無節操でも流石に高校生に手を出そうとは思わない。
人の世話なんて焼けない人種だからだ。全力で甘える。


「大人は休みの前日に全力で遊ぶのよ」
「俺、今日休み」
「は!?」
「遊びに行く」
「何!?」
も」


どうやら例の部活動が急がしいらしく、こうやって訪れるのは極めて稀だ。
それでも顔を出せば今のように無理やりな誘いを押し付けてくるものだから参る。
遊んでられるかと、流石に、言えない。相手は子供だもの。


「あーのねぇ、楓クン。あたし今日は疲れて―」
「首」
「首?」
「その赤いの」
「・・・」


鬼のような眼差しでの首、
その一点を凝視している姿を目の当たりにし
二の句を続ける気さえなくなった。

おお!久々過ぎる流川!
今、SDが半端なくアツイわけですよ。
・・・今更な!