TOY

離れている場所でも一向に構わないらしい。
視線が届けばそれだけでいいと。
誰にも知られたくないのはどちらかといえばの方で、
まあその点に関してだけはギンの言う通りにした方が賢い。
恩を着せられているのかも知れない。


余り集りの中に加わらないギンはそっと佇む。
そんな彼の姿に図らずとも気づいてしまう辺り、
心のどこかに隙があるのかも知れない。
これだ、思いの果てを辿ろうとすればするほど
詰まらない結果に落ち着いてしまう。


完全に空気を、そして輪を乱さないようにしながら席を立つ。
急激に冷えたような感覚に苛まれるが気のせいだ。
長い廊下に出る。果てに待つのはギン―
逢瀬のような、しかしそれよりも具合の悪い何かに遭遇する。
ああ、嫌になる。


「ねぇ、どうしたいの」
「どうもこうも、何も求めてへんよ」
「じゃあどうしてあたしを呼ぶの」
「何で来るん?」
「会話になってないでしょう」
「そんなもん、必要かなぁ」


ギンの掌が顔を包み込む。
挨拶代わりのように口付けそれだけ。
何をしたいのか、何が目的なのかがちっとも分からない。
こんな事なら、この程度の事なら誰とでもやれるでしょう。
だからもう目さえ閉じないのだ。そしてそれはギンも同じ。


「ボクも分からへんのよ」
「え?」
をどうかしたいんかなぁ」


その気持ちが正しいのかどうなのか、そこが分からないからこうなっている。
まだこの辺りで留まっていて欲しい。
進めば何れかはケリをつける事になるからだ。
踏み込めば二度と戻る事が出来ない。分かっている。


「どうかして、いいんかなぁ?」


間近でギンが囁く。
下手に口を開く事も出来ず、曖昧に笑った。

こちらもひっさびさのギン!
もう二度と書く事はないだろうと思ってました。
というか途中まで彼の喋りを忘れており
完全に標準語で書いていた。