燃ゆるアマデウス

視力2.0は伊達じゃあない、
そんな事を思いながら少々離れた場所、
カフェテラスにて一人座っている彼女を目視。
大学構内に洒落たテラスがあるなんて、
そりゃあなんて気の利いた大学、流石私立。


今日はまだまだ練習の時間帯じゃない、
だから特に用はない振りをしつつここで彼女を目視。
そろそろ初夏と呼ばれる時期に差し掛かる、
梅雨がようやく去り始めた辺りだ。
珍しく晴間を見せる空は若干の不安を残すが
まあ、まあ今だけならば構わないと仙道は思う。
今だけ晴れてくれていれば、この距離を考えずと自分、
その上空だけ澄みきり晴れていれば構わない。


大体五分おきに携帯のチェック、多分メールの返信がないのだろう。
誰から、それは分からない。
最初に注文されたレモンティーはとっくに分離し
時折暇そうにストローでそれをかき混ぜている。
メールの相手は何となく予想がついているのだ。それでも口には出さない。
出来るだけ脳裏にも浮かばせない。嫌な思いをするに決まっているからだ。


があのカフェに訪れもうすぐ一時間が経過する、
それに伴い仙道がカフェの見えるこの場所に座り込み一時間が経過するという事だ。
の携帯にはメールが届かないらしいが、
先ほどから仙道の携帯にはどんどんとメールが届いている。
一々見てはいないが、恐らく越野だ。
何故なら今、ミーティングを放っぽり出しているから。
練習でもないのに出たくはないという気持ち半分、
体育館に向かう途中でを見つけてしまったから、動機はそれが100を締める。


「誰のメール、待ってんのかなぁ」


若しかして俺から、それはない。絶対に。
はアドレスを知らないだろうし、
何なら仙道ものアドレスなんて知らないのだ。
ガキみたいに焦がれるだけのこの心。
何やってんだ、我ながらそう思う。


ようし、今から話しかけちゃおうか、そんな度胸さえない。
何かきっかけをくれないかなあ、
等と他人任せにしていれば突如訪れる厚い雨雲。
突然の雨、豪雨、そうして雷。
こいつは大したお膳立てだと笑い立ち上がる。
自然界さえ味方にしてしまったのだ、動かないわけにはいかないだろう。













まったく返事の来ないメールに苛立ちながら
(そもそもはあの男からのメールだったのにだ)まだ来ぬ相手を待つ。
待ち合わせ時間は軽く二時間は過去、
あんなに晴れていたにも係わらず今目の前は豪雨だ。
ゴロゴロと唸る雷は依然ここから動くつもりがないらしい。
急に冷えが押し寄せそろそろここも去ろうか(あんな約束は反古にしてやる)
と思った辺りに黒い影が近づく。
ようやく来たかと思い、
一言二言嫌味を言ってやろうかと思いながら視線を戻した。


「・・・誰?」
「ども」
「で、誰?」
「仙道彰と言います」
「・・・」


どうぞ宜しく。
そう言い差し出された大きな手に一瞬怯みながらも右手を差し出す。
余りに長い間暇そうにしていた為、声かけ待ちと判断されたのだろうか、
そう思い苦笑いを。妙に大きな男だ。


「悪いんだけど、今人と待ち合わせを―」
「ううん、いいよいいよ。知ってるから」
「えぇ?」
「俺見てたの、知ってた?」
「・・・えぇ!?いや・・・」
「うん?俺何か変な事言った?」
「うーん・・・」


にこにこと妙に愛想のいい目前の男は思いの他饒舌だ。
完全に相手のペースに押されてしまっている、これはいけない。
しかし、どれだけ待とうがあの男は来ないのだし、
この誘いに乗ってみるのもいいかも知れない、だなんて、それは暇だからか。
雨が止むまでの間だけ、というルールを心の中でだけ決める。


「見てる位だったら話しかけてよ」
「えぇー恥ずかしいでしょ」
「でも今話しかけて来てるじゃない」
「まぁね」
「雨止まないわね」
「この感じじゃ、夜まで止まないんじゃないかな」
「・・・」


夜までここで話をするわけにはいかない。
心の中のルール変更。


「誰待ち?彼氏?」
「そう」
「来ないじゃない」
「・・・そう」
「ここでずっと待つの?」
「うーん」


じゃあどこか遊びに行こうよ。仙道はそう言う。まあ当然の展開だろう。
誰が見ても間違うわけのない横恋慕をやってのけるこの男が面白いと思った。
よほど自身があるのかそれとも単に変わっているだけなのか―


「ちょっと」


そんな事を考えていれば聞きなれた声が割って入り、
の正面に座っていた仙道の目が軽く見開かれる。


「仙道・・・!?」
「えぇーっと・・・」
「お前、何、いや、ちょぉ」
「久しぶり!」


ずぶ濡れの体で参上した待ち人は一人焦り挙動不審な人間になっている。
知り合いなの、がそう聞けば
未だ上手く口が回っていない土屋は答えられない。
そのまま(どうやら仙道に何かを言いたげではあったが)
の手を掴み店を出て行った。
一人取り残された仙道はの意外な彼氏を目の当たりにし笑う。
そのまま出て行く二人を見ていれば怒った様子の越野を発見し、テラスを飛び越えた。

大学、同じだったんだね(仙道と土屋)・・・
この話では・・・