お前の母親の話をしてみろと唐突に言われ、
本当にこの男は一体全体何を考えているのかと思ったものだ。
そもそも母親の記憶など微塵もなく、
姿かたちさえ覚えていない有様なのだ。
そんな状態なのに何を話せばいいのか。
一昨日からずっと降り続いている雨は少しだけ勢いを殺し湿度だけを増した。
暇なのだろうか、ふとそう思う。
「覚えちゃいねぇか」
「覚えてないわねぇ」
「お前の故郷はどこだ」
「気づいたらこの近くにいたわ」
一つだけ嘘を吐いた。
故郷を覚えていないのは事実だが、物心ついた時には大きな武家屋敷にいた。
同じような子供が幾人も住んでいた屋敷だった。
年を重ねるに連れ皆同じように親がいないという事を知り、
どうやらこの屋敷にてある一介の人物に教育されていくのだろうと知った。
「晋助は覚えてないの?」
「俺ァ、昨日の事も覚えちゃいねぇよ」
「何よ、呆けてきてんのね」
晋助がニヤリと笑う。
「しっかし、暇だな。こいつは腐っちまうぜ」
「あんたずっとそうじゃない」
「しとしとしとしと、耳に煩いったらねぇ」
共に教育された子供達は今どこで何をしているのだろう。
たまたま任務として借り出されたのがこの晋助の絡んだ一件であり、
命を落とす寸前に拾われたのも運命なのか。
厳しく躾けられたあの日々からは想像もつかない程今の生活は堕落している。
雨さえ止めば少しは気引き締まるかとも思ったが
横になったまま起き上がらない晋助を見ていればそんな事もないかと思えた。
あ、あれっ!?
名前変換が一箇所もないよ!
というかそれをUPする時に気づいたよ…