往々にて鈴が鳴る

心臓がズキンと痛む瞬間がつい先刻訪れたばかりだというのに、
どうにも今日は気の置く暇がないようで痛みが一向に引く気配がない。
大体起きてしまった事は仕方がないと放置するのだけれど、
それはこちらのやり方であり、
往々に物事を荒立てたがる輩というものはいるわけで
偶々そんな性質の持ち主だったわけだ。


凍てつく夜空に顔を晒しでもしなければ
酔いが回りきってしまうと思いクラブを出た瞬間の出来事だった。
今日はクリスマス・イブという事で喜助の経営するクラブを貸切
(こんな書き入れ時に貸切なんて事をしていいのかとも思ったが)
皆を呼び出しパーティを行っている。


乱菊が酒を次々に開けていくものだから喜助ともちっとも話せないし、
話す云々よりも先に酒を次々に飲まされるものだからすっかり酔いが回ってしまった。
普段よりも妙に酔いの周りが早いと思い
シェーカーを振っている喜助を見つめれば
こちらに目線だけ寄越しニヤリと笑う。
どんな分量で作っているんだと思った。
とっくに潰れた、というか潰された数人は奥のVIPルームで寝ており、
流石にそこにお邪魔するわけにはいかないだろう。
そう思っていればこの有様だ。酔いなんて一気に醒めた。


冷えが少しだけ分かる状態で煙草を吸おうと咥えればすっと火を出される。
顔を確認せずとも誰かが分かり目を閉じた。
強いメンソールの味が歪んだ脳を刺激する。


「そんなに酔って」
「…あんたが来るなんて珍しいわね」
「ボクはこんな日でも仕事なんよ、。カワイソウやろ」


じゃあこんな所で何してんのよ。
それは聞けず紫煙を吐き出す。


「彼氏サンは何してはるの」
「店に、いると思うけど」
「そりゃ、挨拶してこな」
「…」
「冗談、冗談」


ボク、もう戻らないかんし。
目を閉じればグルグルと回っている。
地面も、目前もギンの言葉もだ。
グルグルグルグル。
ギンはそのまま足音を残し消えたようで、
ふと気づけばフィルターまで燃えていた。







現状を維持する事にはもう疲れたし、どうにでもなれと思っている。
過ちを犯したのは一度。恐らく喜助は知っていると思う。
犯した後すぐに罠に嵌ったと思い後悔をするが
隣でギンは笑っていたし、後にはひけないと知ってもいた。


何故手を出してきたのかは分からない。
只、愛とか恋とか、そういったものではない、それだけは知っている。
それなのに何故堕ちたか。


何だか全てが面倒臭くなり、
小さく蹲っていれば喜助が捜しに来たのか姿を見せる。
じっと見上げれば笑む、居た堪れなくなる。
どうせお前もとっくにお見通しなんだろう、
腹の中でそんな見当違いの悪態を吐けども
口にし確かめる事は出来ないのだ。
きっとそんな自分に一番嫌気が差している。


、こんなに冷えて」
「あんまり分からないのよ」
「風邪をひきますよ」
「あたし、分からないから」


先に続く言葉は心が、なのか。
一人そんな事を思っていれば折角のクリスマスが
もっと台無しになるような気がして溜息を吐き出した。

イブ、って打ったら伊武って出て来て吃驚した。
珍しいパラレルですよ。珍しいな。
先日、実家に帰った所、全巻読みまして、再熱?
ギンは恐らく接客業だ、どんなか、はアレですが。
何れにしても皆様、メリー・クリスマス。