ゴースト

毎年同じ時期、特定の日に立ち寄る場所が決まっている。
一番寒い日だ、丸一日、陽が出ない唯一の日。
それでも空は白く染まりオーロラが輝く。
まったくいつ来ても死ぬほど寒い場所だぜ、そう吐き捨てる。
こんな時にしか羽織る事のない白いファーのコートさえも冷え切り、
辺りを見回せども古い建物がズラリと並んでいるだけだし、
生き物がいるのかさえも分からない。
まあ、毎年思う事だ、だから今年も同じ思いを抱く。


まず部屋についたら度数の高いウォッカを喰らい、温かい湯に浸かる。
身体の芯まで冷え切っているのだ、その位の出迎えはしてもらおう。
がこんな僻地、世界の果てに住み始め既に五年以上の歳月が流れた。
突如姿を晦ました彼女を探し出すまでにまず三年が必要で、
ようやく見つけたと思えばこの有様だ。
人の事はいえないが好き勝手をしてやがると思う。
まあ、それは俺も同じか。


「おい、俺だ」
「…」
「開けろよ、凍え死んじまう」


寒さを防ぐ為に重く厚く造られたドアは
の力で開けるには少しばかり時間がかかる。
無理矢理こじ開けてもいいのだけれど、
それでは余りに無粋だろうと思い開かれるまで待つ。


「…あんた、又来たのね」
「随分な言い草だ」
「早く忘れなさいよ」


あたしだって早く忘れたいわ。
昨年より少し痩せただろうか、浮かない表情のが僅かにドアを開けた。
滑り込むように中へ入る。
あの頃からの心を溶かす為に近づいていた。
の心は少しでも溶けたのだろうか。









まだ両腕があった頃だから随分昔の話になる。
名を売る為に戦いを挑んでくる海賊と血を流し合い、
その船長の胸元に刺しこんだ刀を抜いた瞬間だ。
まだまだ若い海賊団だった、そうして中々に正直な船長だったと記憶している。
こびり付いた血と一緒に写真がついてきた。何気にそれに視線を落とす。
幸せそうに笑っている男と女。まあよくある写真だ。
誰にでもそれなりの人生があると思いその場は終わった。ところがだ。


その翌週、たまたま立ち寄った街でその女を見つけたのだ。
男の死すら知らず仕事に勤しむその姿に正直、興奮した。
女は街でも一番栄えている酒場で働いていた。
様子を見る為に少しだけ滞在し、連日のように足を運んだ。


足を運び五日目だ。
突如彼女の姿が見えなくなり、恐らく知れたのだと想像する。
それから行動を開始した。


彼女の居所を探し出し、何食わぬ顔で声をかける。
恋人に先立たれた彼女はとうに死んでいるも同然で、
余りいい感触ではなかったが暇潰しのように粘った。
少しだけ心を開きかけたはそれでも男を追いかけている。
何故だろう、そんな関係が堪らなく魅力的で心を動かされた。
一緒に眠るようになってからも同じだ。
毎晩魘され真夜中に目を覚ます彼女に気づかれないよう目を開けていたあの時。
つかの間の夢のような時間を持て余していた。


そんな戯れが終わりを迎えたのはシャンクスが海賊だという事が知れた時であり、
それと同時に殺した事も知れた。最もゾクリと興奮した瞬間だ。
物語は最高潮、決して終わらせたくはなかったもののエンディングへと向かったのだ。
そして彼女は当然のように姿を消した。
愛してはいなかったという事だろう、あの男よりは。
だからといってシャンクスが抱くこの思いが、負けた腹いせだとは思わない。
こちらはこちらで愛していた、執着ではなく、追いかける程には愛していた。









「こんな寒い国で、ひっそり生きていくには惜しくねぇか」
「何度も何度もよくもあきもせず同じ事を言うのね」
「年中こんなトコに引き篭もってりゃ、頭もおかしくなるぜ」
「あたしが知らない内に、あんたの片腕もなくなってたわ」
「だろう?そいつは心配だろう、なあ、
「だからって、心配はしないわよ」


こんな愛では幸せにはなれないと知っている。それも互いに。
それなのにだ。何故、幸せにはなれない愛ばかりがこうも愉しいのだろう。

あけましておめでとうございます。
2009年初夢は何故かシャンクス、というね。
こんな感じで今年もやっていきますので、
皆様、どうぞ宜しく…