ホワイト

ちょっともう勘弁してよ、こんな口癖はなかったはずだ。
いつ頃から出始めたのか。丁度ローと出会い始めた頃からだ。
まあ、勘弁してよと呟いた所で、
口から出た辺りにはとっくに手遅れなわけで、
勘弁してくれた例は一度としてない。だから繰り返すのだ。


とんだ大嘘吐きを相手にしてしまったものだ。
元々、嘘が下手なわけではないのだけれど、今回ばかりは相手が悪過ぎる。
あの男は全てを欺き、世界を欺いて生きているのだ。
そう、自身でさえも。




「…そういうの、止してよ、もう」
「は、何がだよ」
「あたしをここに縛り付けるの」




確かに自分のせいだと分かってはいる。
差し出された飲み物を何故か疑わず口にしてしまったのだ。
これまで、一度としてそんな無用心なやり方をした事がないにも係わらず、
その一度だけしてしまった。


問題はその飲み物にローが何かしらの薬物を混入していた事であり、
そしてその薬物が稀にみるほど中毒性の強いものだったという事だ。
すっかり骨抜きになってしまったが自覚するまでそう時間は必要なかった。




「けどよ、手前が欲しがるんだぜ、
「分かってる、それは分かってるけど―――――」
「お前が、俺にせがむんだよ」




背後からローが肩を抱き、耳側で呪文のように囁き出す。


なぁ、。お前が俺から離れられねぇんだ、
俺にしがみ付いて俺を縛りつけてんのはお前なんだよ。


耳を塞ぎたくとも身体が思うように動かず目を閉じる。
中毒を自覚してからが地獄だ。
頭では分かっているのに、身体がちっとも言う事を聞かない。
ここまで自我が弱いとは思っておらず、自尊心も何もかも完璧に砕かれた。
こんな姿を誰かに見られようものなら
即死んでやると思える程には弱りきっている。
死んでいるようなものだ。


「あんた、一体、何がしたいの」
「さぁ」
「殺したいんなら殺せばいいじゃない」


こんな、こんなやり方。


震えの止まらない指先を見つめる。
視界がぼんやりと歪み始めれば、もうじき気を失うのだろうし、
そんな時ローがどんな顔をしているのか。笑っているのか。
見る事も出来ない為分からない。


このままこの小さな部屋で骨だけになり、
そんな哀れな姿のまま腐り死んでゆくのだろうか。
ごめん被りたい幸先だが今のところはそれ以外の道を見つける事が出来ない。









只、を手に入れたかっただけのように思える。当初は。
いつから軸がずれ始めたのだろうか。
飲ませた薬は酷く中毒性の強いものだが、一発で抜ける解毒薬がある。
只、それを飲まなければ死に至る。


何故こんな事になってしまったのだろう。
最近、ふとそれを考える。自ら行った事なのに。
気を失う感覚が短くなっているを見つめ、
こいつはそろそろ重篤な状態に差し掛かっている、
それさえ分かっているのに動かない彼女を放したくなくて。
只の暇潰しにしては身を入れすぎた。
解毒をしたらは逃げていくだろうか。


見る見るうちにやせ衰えていく彼女を見ながら
結局自分の事しか考えていないと、笑った。

異様にタイムリーな話なんですが、
他意はないです。本当に。
久々の更新がこれでスイマセン…
ていうかロー、ごめん