弱いヤツほどよく吠える、命乞いの姿が余りに憐れで醜く、
その度に何故そんな真似が出来るのかと呆れたものだ。
美意識のあり方が問われる。
弱さは罪、そんな事も分からねぇのかと呆れる。
この大海原を前にして畏れを抱く間抜けな胸中、
砕ければ二度と立ち直れない繊細さ。
何れにしても間抜けのよくやりそうな事だ。


「あんた、これからどうするのよ」
「まだ何も決めちゃいねぇよ」
「心配性のあんたが、何も決めてないわけないじゃない」
「……」


あたしとはもう遊んでられないってわけね。
察する能力に長けているこの女が嫌いだった。
何かを欲する事なく、他人を愛すこの女が。
この俺を他愛なく愛したこの女が嫌いだった。
何か、特別に欲しいものを全て持ったこの女が―――――


「あんたを一人にするのは心配だわ、クロコダイル」
「余計なお世話だぜ」
「どうして無駄な事が出来ないの」


力ずくで叩きのめす事が出来れば、
こんなにも面倒くさい展開にはならなかったのだけれど、
生憎とやり合えば無駄な傷を山ほど負わなければならなくなる、
無駄な事が出来ないクロコダイルは黙る他ない。


「あんたって心まで砂みたいね」


ああ、そうかも知れねぇな、
そう答えたのは何も面倒だったからではない。
違うと言えなかったからだ。
弱さは心を隠す。
自分自身の気持ちさえ隠し、すっかり見えなくさせる。
そのコーティングが幾重にも重なり
気づけば愛する事を忘れる、強くなったと錯覚させる。




だからクロコダイルはに対し
愛してるの一言さえ口に出せず、
彼女は独りよがりに似た関係に甘んじていたわけだ。
互いにどうにも出来ない事は知っていて。


「どうして受けたの、七武海の話」
「理由は―――――」
「あたしから逃げたかったの?」


感情のみで生きている癖にどうして強さをも兼ね備えるのか。
つまらない悔しさがこの心を腐らせているとしても
まだ認める事は出来ない。

お前のせいじゃないという話。