Voice

何の用件もなしに呼び出す女の事だ。
今回も特に用件はないと思っていれば、
横顔に少しだけ翳りが見え、ローは溜息を吐き出す。
本当にこの女は頭がいいのか悪いのか、計算高いのか抜けているのかが分からない。
兎にも角にも厄介だと呟きながら待たせたなと手を上げる。
目の前の女は呼び出した割りにこちらに大した興味はないらしく、視線だけをよこした。


「何だよ」
「別に」
「暇だったのか」
「暇じゃないけど」
「じゃあ何だよ」
「別に」


声が聞きたくて。
そんな事をさらりと言いのけるこのという女は
死ぬほどずるいと思うわけだ。ローにしてみれば。
だから、特に聞きたくもないが何かあったのかなんて事を口にする。
聞かなくても分かっているのに。
どうせあの男と別れでもしたんだろう。
何人目だと思うが、それは口に出さない。そんな事よりもだ。


「何かさあ、結局ここぞって時にあたしの方が強かったのよね」
「この前も似たような事、言ってたぜお前」
「あたしはそれでもよかったんだけど」


は強い。だから迂闊に手を出せないでいる。色んな意味で。
自分よりも強い女を許せる男がどれだけいるのかは分からないが、
その差が歴然としていれば逃げ出すのも仕方がない。


なぁ、俺がお前から逃げない理由は考えねぇのかよ。
話をしていればそんな疑問が浮かんでは消えていく。
未だ口に出した事はないものの、が気づいているのかどうなのか―――――
口に出さないから知らない、そんな理由は確かに最もだと思う。
俗にいう駆け引きと似ているのだろうが、余りにも浅すぎる為、効果はないのだけれど。


「まあ、いいや。あんたの声も聞けたし」
「何だよ、それ」
「ごめんね、忙しいんでしょ」
「まぁな」


そうやって、たったこれだけの時間は終わる。終わっていた。
そうして次に会う時には又別の野郎がの側にいて、
又同じ事を繰り返すだけだ。も、ローも。
少しだけうんざりしていたものだから、今回ローは立ち上がらなかった。
僅かに戸惑ったの眼差しを見つめながら。


「何?」
「いや、俺もお前の声が聞きたくて」
「えっ?」
「意外か?」


海の見渡せるテラスに一際大きな風が吹く。の髪が揺れた。
髪以外も揺れるかも知れない。いや、揺らす。

拍手、ありがとうございました!
第三弾はローです。
焦がれロー…