ねぼけた頭をどうにか覚まそうともがくが全て徒労に終わる。
この宿は値段のだけあって安っぽい造りだ。
黒ひげを追い、延々と走り続けている。
一人の部屋は何度目になるだろう。
微かに湿ったシーツからは安物の香水が香っている。
昨晩、町で買った女の残り香だと気づき、少しだけ辟易とした。
若さゆえか欲求は溜り、
それを我慢する事は出来ずに当たり前の行動を行っているだけだ。
精を出すだけ。
出してはいるはずなのに、どうして気は晴れないのだろう。
そんな、酷く詰まらない事を考えてしまった。


窓の外を見つめれば灰色の雲が空を覆っている。
嫌な天気だぜと一人呟いたエースはようやく思い腰を上げた。
一人になったばかりの時は心がちっとも収まらず、
同じ部屋に戻りたくはないと外へ出て回ったが、
少し時間が経てば本当に一人なのかと確認する様になってしまった。
馬鹿馬鹿しい話だ。


寝返りの途中での身体に触れる感触や、
浅い眠りの度に薄暗い部屋の中映る彼女の顔。
悪い夢に魘され目覚めたエースにどうしたのと声をかける彼女を。
夢の理由は言えず、それでも理由を知りたがらなかった彼女を
何故信じ切れなかったのだろう。


「腹ぁ、減ったな」


誰も悪くはなかったはずだ。
を信じる事が出来なかった自分が悪かった、
そんな心が悪かった、それだけ。
がマルコと話をしている様子や、さり気ない仕草、
そんなものを勘ぐってしまった。どちらにも失礼な事だ。
距離を置き分かる事があるとよく言ったもので、今と離れ思う。
疑い傷つけ、それでも愛していた事。愛している事。
感情に任せ酷い事を言ってしまった。
俯いたまま何も言わなかったに、
言い訳も出来ないのかと吐き捨て、そのまま部屋を出た癖に。


「あぁー。腹、減った」


同じ言葉を何度も呟き、
降り出した雨の音を聞きながら又ベッドに横たわる。
安い香水の臭いが鼻につき、眠れる道理がないと知っていた。




よごれたおもいで


拍手、ありがとうございました!
第五弾もエースです。
猜疑エース…
2010/2/18